研究課題/領域番号 |
18KK0092
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
多田 隆治 千葉工業大学, 地球学研究センター, 嘱託主席研究員 (30143366)
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研究分担者 |
田近 英一 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (70251410)
岡田 誠 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (00250978)
黒澤 耕介 千葉工業大学, 惑星探査研究センター, 上席研究員 (80616433)
鹿山 雅裕 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30634068)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2023-03-31
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キーワード | 小天体衝突 / イジェクタ / 衝撃変成石英 / 衝突実験 / PDF / オーストラリア-アジア・テクタイト・イベント / マイクロテクタイト / 養老川ルート |
研究実績の概要 |
2021年度に入ってもコロナ感染の波は繰り返し、べトナムでも日本とは位相がずれた形で感染の波が繰り返された。ベトナムへの渡航は一応可能となったものの、県をまたいだ移動が制限されていたため、ベトナム南部調査が実施出来ぬまま年度末を迎えた。ベトナム南部におけるイジェクタの層厚、粒度、組成のデータの取得は決定的に重要なため、計画の1年延長を申請して認められた。 ベトナム調査の延期に伴い、イジェクタ堆積物試料の分析や実験を集中して行う様に計画を変更した。特に、国際誌に投稿した原稿に対して、我々が報告した衝撃変成石英が、これまで知られている衝撃変成石英といくつか特徴が異なることが指摘された。我々はこれが衝突の標的となった岩石が多孔質な砂岩だったためではないかと考え、黒澤、多田賢弘に依頼して花崗岩および多孔質砂岩を使った衝突実験を行った。回収試料の薄片の偏光顕微鏡やSEMでのPlanar deformation features(PDFs)の比較観察から、典型的衝撃変成石英のPDFsと異なる特徴のいくつかは、標的が多孔質砂岩であったことに起因する可能性が示唆され、さらに観察を進めている。また、多田賢弘、鹿山らは、放射光XRDを使って推定衝突地点周辺の基盤をなす中生代砂岩中の石英の格子定数を測定し、その値が推定衝突地点に向かって増加する傾向を見いだし、現在その確認を行っている。 上総層群におけるマイクロテクタイト検出については、岡田が中心となり、銚子での掘削コア Choshi-1 について昨年度5cm間隔で採取した試料の粗粒シルトサイズ以上の粒度画分を抽出して検鏡作業を行うと共に、養老川ルートにおける国本層のMIS20付近の層準についてシルト岩部分のサンプリングを行い、先ずマイクロテクタイト層準を絞り込むための詳細な酸素同位体層序構築のため有孔虫の抽出作業を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでのタイ東北部、ラオス南部、ベトナム中部、カンボジア中部の調査・分析で、イジェクタ層を同定し、その層厚分布の概要をつかむことにより、衝突地点の位置や規模の推定が一応可能になったが、衝突地点の南東方向に位置するラオス南東部とベトナム南部のデータがまだ欠けていた。これは、衝突地点を中心に約90度の範囲のデータに相当する。このデータがないと、層厚分布の分布に不確定性が残り、衝突地点の位置や衝突規模の推定誤差もおおきくなってしまい、一流国際誌への成果の投稿に支障をきたすと判断された。 そこで、Covid-19の感染状況が改善されることを期待して、2020年度からひたすら調査のチャンスを待った。2020年度は日本において海外渡航が厳しく制限され、ベトナムでも国内移動が制限されていたため、調査が実施できなかった。2021年度においては、ベトナムでは6月頃からCovid-19の感染が拡大し出し、ベトナムへの渡航や国内における県をまたいだ移動も厳しく制限されたため、調査を実施できない状況が続いた。ベトナムにおけるCovid-19の感染状況は2022年3月中旬にピークに達したが、その後急速に減少し、4月末にやっと終息した。これに伴って、ベトナムへの入国制限も緩和され、現在は調査が行える状況になっている。そこで、ベトナムの共同研究者Xuan博士に連絡を取ろうとしたところ、2022年1月に死去している事が判明した。そこで急遽、別の共同研究者Van Pham Dang Tri博士を紹介してもらうことになった。 このように、日本やベトナムにおけるCovid-19の感染拡大とそれに伴う渡航制限、入国制限、国内移動制限が続いたことが、研究に遅れが生じた最大の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、イジェクタ・ブランケット堆積物(ユニット2)の層厚分布が明らかになり、衝突地点が推定されたが、推定衝突地点南東側(ベトナム南部)のデータが欠如していた。成果を一流国際誌に発表するには、ベトナム南部のデータが不可欠である。これまでコロナ禍のため、ベトナムにおける地質調査は不可能だったが、状況は徐々に改善され、4月時点で調査は可能となった。そこで、新たな共同研究者DRAGON-Mekong InstituteのVan Pham Dang Tri博士の協力を得て、11月の調査に向けて準備を開始している。地質調査・試料採取は代表者と2022年度から分担者に追加する多田賢弘、研究協力者のPaul Carling博士、Van Pham Dang Tri博士、Quoc Cuong Nguyen氏の5名で2週間程度かけて行い、イジェクタ層の岩相層序、層厚、粒度、粒子組成などのデータを取得する予定である。また基盤岩の試料採取も行う予定である。更に状況が許せば、上記と同様の理由で2023年2月に代表者と分担者の多田賢弘、研究協力者のPaul Carling博士、Wickanet Songtham博士の4名で2週間程度かけてラオス南西部の調査を行いたいと考えている。 新たに採取した試料についても時間が許す限り分析を継続して、イジェクタ層中の礫種や基盤岩中の石英における格子歪の地理分布を明らかにし、衝突地点推定の信頼度をさらに増加させる。 マイクロテクタイトについては、3つの色のタイプの存在が明らかにされたので、それらの化学組成を分析し、それらの起源、成因を推定する。 これらの成果は、JpGUの機関紙PEPSに特集号を組み、2023年中に出版することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018、2019年度のインドシナ半島における地質調査の結果、小天体衝突地点がおおよそは推定されたが、その成果をより確実なものにするためにはラオス南東部およびベトナム南部における地質調査が必要だった。その調査は、当初2020年度に計画されていたが、2020年3月頃からのCovid-19の世界的な感染拡大に伴い、海外渡航が困難になり、例えベトナムに渡航できても、国内での移動が制限されていたため、地質調査は実施できなかった。そこで、これら地域の地質調査実施の可能性を残すため、2020年度に予定していたベトナム南部調査の調査費用と2021年に予定していたタイでのワークショップおよびラオス南部での現地討論会の費用の大部分を2022年度まで繰り越した。 2022年に入り、ワクチンの普及などによりCovid-19の感染状況が日本や東南アジアの諸国においても完全されはじめ、地質調査が可能な状況になりつつある。そこで、2022年秋に2週間程度のベトナム南部調査を、2023年初旬にラオス南東部の調査を計画している。これらの地質調査の費用は、当初の推定額より2-3割上昇しているため、タイでのワークショップは中止し、残りの金額の大部分をベトナム南部およびラオス南東部の調査に当てる予定である。
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