研究課題/領域番号 |
18KK0235
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
塩谷 文章 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 主任研究員 (10627665)
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研究分担者 |
中田 慎一郎 大阪大学, 高等共創研究院, 教授 (70548528)
安原 崇哲 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (90757056)
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研究期間 (年度) |
2019-02-07 – 2022-03-31
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キーワード | DNA複製ストレス / ATR / ゲノム不安定性 |
研究実績の概要 |
がんドライバー遺伝子の活性化は、異常なDNA複製ストレスを誘発し、ゲノム不安定性を誘発する。これまでに、K-rasG12V肺腺がんモデルを作成したところ、DNA複製ストレス応答の中心的な役割を果たすATRの高発現が形質転換を促進する実験結果を認めた。本年度は、コントロール条件下でK-rasG12V発現によってわずかに足場非依存性細胞増殖能を獲得したクローンを取得し解析したところ、K-rasG12Vを発現する前の細胞に比べてATRの発現が上昇する結果を得た。すなわち、ATR高発現はK-rasG12Vによって誘導される形質転換において必要十分条件を満たすことが強く示唆された。また、K-ras(-/+), ATR高発現(-/+)細胞群において複製ストレスの原因と予想されたR-loop量を測定したところ、K-ras発現によってR-loop量が上昇すること、またATR高発現細胞においてもほぼ同程度のR-loop量が上昇することが示された。これらのことから、ATR高発現の有無にかかわらず、DNA複製ストレスの原因となるR-loopはゲノムDNA中に存在するが、コントロールの細胞ではR-loopに直面した複製フォークはDNA複製を停止するのに対して、ATR高発現細胞ではR-loopを乗り越えてDNA複製進行は停止しないことが示唆された。現在、K-rasG12V発現下のコントロール、およびATR高発現細胞におけるDNA複製フォーク後退、安定性維持、複製再開機構や、リプライミングによる損傷乗り越え複製機構について検証を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度補正予算による追加採択となったため、H30年度に予定していた実施事項はには大きな遅れが生じていたが、H30年度およびR1年度に予定していたDNA複製ストレスの原因や複製ストレスの程度に関する大部分の実験を進めることができた。現在ゲノム不安定性誘発のメカニズムに関する解析を進めており、当初の予定通り研究を遂行しうる。
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今後の研究の推進方策 |
K-rasG12VによるDNA複製ストレス誘発要因を解析し同定する。ATR活性化に重要なssDNA構造が存在するR-loop構造に注目して解析を進める。R-loopが直接的なDNA複製ストレスの要因かどうかを調べるため、R-loop分解酵素であるRnaseH1を利用する。K-rasG12V発現下においてにRnaseH1を導入し、DNA複製ストレスの進行、遅滞、再開、さらにはリプライミングにどのような影響を及ぼすか検討する。またR-loop以外のDNA複製ストレス要因としてdNTPに注目しK-rasG12V発現下のコントロール、ATR高発現細胞ににおけるdNTP量を測定し、細胞内dNTP量がDNA複製ストレスに及ぼす影響について解析する。さらにdNTP産生酵素のノックダウンによるDNA複製フォークに及ぼす影響について検討する。またこれらと並行して形質転換後の細胞をクローニングし全ゲノム配列解析を行いATR高発現によって発生するゲノム異常の特徴について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H30年度追加採択のため予定より大幅に研究の開始が遅れ、R1年度にH30年度とR1年度に予定していた実験項目を行い大きな遅れは取り戻したが、全てを執り行うことができず、次年度に行うため。
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