研究課題/領域番号 |
18KK0270
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研究機関 | 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 |
研究代表者 |
左近 直美 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 微生物部, 主任研究員 (50291216)
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研究分担者 |
余野木 伸哉 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 微生物部, 主任研究員 (20553613)
北島 正章 北海道大学, 工学研究院, 助教 (30777967)
駒野 淳 独立行政法人国立病院機構(名古屋医療センター臨床研究センター), その他部局等, 臨床検査科長 (60356251)
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研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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キーワード | ノロウイルス / ディフィシル菌 / 環境循環 / 分子疫学 / 不顕性感染 |
研究実績の概要 |
腸管感染性病原体の真の伝搬解明に努め、効率的なサーベイランスの構築を目的とし、下水環境における病原体を解析することでこの課題に取り組む。 まず、不顕性感染を含むノロウイルス流行実態を把握するため、場所、採取年を変えて下水処理施設におけるノロウイルスの検出状況を明らかにした。米国では2011-2012年および2014-2015年にアリゾナ州の2カ所、2018年はルイジアナ州および大阪の下水処理施設で採取した下水試料からノロウイルス遺伝子の一部(キャプシドN末端領域)をPCR法により増幅し、PCR産物の塩基配列を次世代シークエンサー(Illumina MiSeq)により決定した。アリゾナでは5つの遺伝子型が検出され、2年後GIが4種類、GIIが5種類に増加した。2カ所の処理施設を比較すると同一都市内でも場所、時期(月、年)によってノロウイルス検出株が異なることが明らかとなった。2018年は大阪ではGIで5種類、GIIで4種類を、ルイジアナ州では、GIが5種類、GIIが8種類であった。患者ベースでは検出されてこないマイナーな遺伝子型には地域的な多様性があることが示唆された。一方で、国、調査年を超えて検出される遺伝子型が存在し、世界的に蔓延していることを示している。また、世界的に検出されながら、患者からの検出が認められないGI.1が長期にわたってヒトの中で感染が維持されていることが示された。 ディフィシル菌についてはキャピラリー電気泳動とwebriboデータベースを用いたPCRリボタイピング法を実施する体制を構築した。この方法を用いて名古屋市において分離されたCD128株についてPCRリボタイピングを実施し、上位3つのリボタイプによって分離菌の56.3%を占めることがわかった。この地域で一定の流行を起こす系統があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、アリゾナ大学との共同研究にて採取された下水流入水(2011-12年採取)からノロウイルスを検出し、キャプシド領域約300bpをPCRで増幅した。下水処理施設における流入水の解析において、同一地域における長期観察を実施できた。一方で同一期間に日米と大きく離れた地域における調査を実施することができた。これまで下水調査においては同一地域における数年の解析の報告が多いが、同一地域の長期観察および地理的に離れた場所での比較を次世代シーケンサーを用いて実施することができた。国際学会においてノロウイルス分子疫学のポスター発表およびGII.17におけるポリメラーゼ解析の3題を共同発表を含め報告することができた。また、腸管感染症であるロタウイルスについても対象を広げ、新規リアソータントを検出した。ディフィシル菌についてはキャピラリー電気泳動とwebriboデータベースを用いたPCRリボタイピング法を実施する体制を構築した。約1.5年間の同一地域におけるCD分離株のリボタイプを追跡することで、地域内で主要なリボタイプによる流行と散発が繰り返されている可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
下水流入水におけるデータと小児にける検出株のシーケンス解析について時系列を反映した解析を実施する。国内における環境および小児検出株との相関性について解析をすすめ、流行形成、変異について予測解析の実現性を検討する。国内における流行解析ポイントとして札幌市を候補地としてすすめており、解析における量および質の向上を推進する。 ディフィシル菌については構築したPCRリボタイピング法による検査体制を用いて、大阪府や他の都道府県におけるCDの流行を調査する。このために協力機関を募集する。また、名古屋市分離株については流行と散発の繰り返しがみられた主要な3つのリボタイプについて、菌株レベルの関連性を調査するために、MLVA法を実施する。これによって各株の関連性を調査するとともに、データベース情報と照合することで、世界で分離された株と比較する。主要な3つのリボタイプの代表株やその他の特徴的な株は全ゲノム解析を実施して、データベースに登録されている全ゲノム解析情報と比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費および論文投稿費について予定していたが、今年度は実施に至らなかった。
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