研究課題/領域番号 |
18KK0292
|
研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
猪上 淳 国立極地研究所, 国際北極環境研究センター, 准教授 (00421884)
|
研究分担者 |
佐藤 和敏 北見工業大学, 工学部, 特任助教 (60771946)
川口 悠介 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (00554114)
野村 大樹 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (70550739)
|
研究期間 (年度) |
2018-10-09 – 2021-03-31
|
キーワード | 北極海 / 温暖化 / 湿潤化 / 雲システム / 海氷 |
研究実績の概要 |
2018年11月に海洋地球研究船「みらい」による北極航海にて、明星電気社製の雲粒子(CPS)ゾンデ観測を実施し、機材の作動状況や取得データの質を確認した。合計12回の観測を行い、雲水と雲氷の判別、粒径分布の鉛直構造など、想定されたパラメータが概ね良好に取得できる観測システムであることが確認できた。特に、海氷縁からの寒気吹き出しに伴う気団変質過程で形成される筋状雲の風下方向への変化は、鉛直方向の粒径の分布の差として観測され、海氷のない北極海での代表的な雲システムの理解に資するデータとなる。 また数値モデリングに関しては、既存の観測データを用いた領域大気モデルの比較プロジェクト(Arctic CORDEX)に参加し(ドイツの対応者:アルフレッドウェーゲナー極地海洋研究所AWIのAnnete Rinke氏)、特に2014年の「みらい」北極航海での定点観測データを検証材料とした相互比較を当研究課題で担当することにし、解析に着手した。この観測データには雲粒子を観測するビデオゾンデデータも含まれており、不確実性の高い領域モデルの雲物理過程をそれらのデータを用いて詳細に検証する予定である。 AWIが主導する北極海で一年間砕氷船を漂流させるMOSAiCプロジェクトには、本研究課題から2名の研究分担者が乗船する。それぞれのタスクチーム(海洋チーム、地球化学チーム)内の連携を深めるため、ドイツのポツダムで開催されたワークショップ等の機会を利用し、自分が乗船しない時期の観測の分担について綿密に調整を行い、人的配置も考慮した通年観測データの取得方法の道筋をつけた。測器に関しても、海氷の動きや温度を計測できる漂流ブイの購入準備を進めた。また海氷の空撮を行うためのドローンの運用方法についても検討を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CPSゾンデの試験観測では十分な結果が得られ、2019年度の本格実施に向けて調整を開始した。特にニーオルスン(北緯79度の北極基地)ではAWIの協力が必要不可欠であるため、2018年3月にAWIを訪問し、CPSゾンデの観測方法(AWIにヘリウムガスとゴム気球を用意してもらい、AWIが実施する他の気球観測に便乗)などをAWIのMarion Maturilli氏と相談しており、大方こちらの提案を承諾してもらった。2019年10月に実施する「みらい」北極航海でもCPSゾンデを実施するが、研究分担者の一人が航海首席研究者としてその準備を進めている。 MOSAiCを対象として大気領域モデルの相互比較研究も、日本が取得した北極の観測データを検証材料とする研究を当研究課題で実施することになり、国際的にも注目されている。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年10月から一年間の予定で行われるMOSAiCプロジェクトが始まることを受け、当研究課題では10月に「みらい」船上でのCPSゾンデ観測およびドップラーレーダー観測を実施するとともに、海氷縁では海洋表層の成層構造を高頻度に観測する。また、船上からドローンを飛行させ、周辺の海氷分布や氷上の積雪状態を観測し、数値モデルの検証・改良に資する知見を得る。 MOSAiC期間中の2020年2、3月には北極のニーオルスン基地においてもCPSゾンデ観測を実施し、ドイツ砕氷船上の観測データと比較できるデータを取得する。こちらはドイツ基地との連携でもあり、CPSゾンデ以外に通常のラジオゾンデ観測を1日4回に頻度を上げ、MOSAiCのラジオゾンデも含めたデータ同化実験により、北極圏および中緯度での極端現象の予測可能性研究を推進する。 2018年度に着手したArctic CORDEXの研究成果を論文としてまとめるとともに、MSOAiC、「みらい」、ニーオルスンで新たに取得されるデータについて、事例解析を始める。 2020年4月以降にドイツ砕氷船に乗船予定の研究分担者2名においては、機材の準備・輸送手続き、各国際研究グループ(海洋グループと地球化学グループ)との連携を密に行い、通年観測データの取得に貢献する。サイエンス面では、昨年度オホーツク海での海氷観測で得られたデータを解析し、渦相関法による乱流フラックス手法の有効性を確実なものとする。特に、計算の効率化・解析データの解釈・定式における係数の再検証などに注力し、MOSAiC本観測中でのタスク遂行を意識した研究に取り組む。
|
次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の使用の効率化、及び国内研究打ち合わせの効率化を図ったため、物品費と旅費に余剰金が発生した。余剰金は、次年度に計画されている北極観測の滞在日数を増やすため、外国旅費として充当する。
|