研究課題
2019年度はWTO紛争処理、とりわけ上級委員会に係る問題を研究の中心とした。WTO紛争処理の裁判的手続は第一審に相当するパネルと第二審に相当する上級委員会から構成される。常設の上訴機関である上級委員会によるWTO協定解釈は、事実上の先例に近い権威のある解釈としてしばしば後の紛争において参照され、WTO体制の安定性と予見可能性の確保に貢献してきた。しかし近年、米国が上級委員会によるWTO協定解釈はWTO加盟国の意図を踏まえていないなどと批判を強めるようになり、特に2019年には米国の上級委員会委員任命拒否により在籍委員が1名となり(定員は7名)、機能不全に陥った。こうした状況から、2019年度においてはWTO紛争処理、とりわけ上級委員会の改革に関する議論が国際的に活発に行われた。私の2019年度の研究も、上記の背景を踏まえ、上級委員会の改革を主に取り扱った。特に注目したのが、上級委員会による解釈の先例としての性質の有無である。本研究の目的は他の国際裁判手続との比較を通じて「WTO紛争処理…における国際法の規則及び原則の位置づけを明らかにすること」にあるが、2019年度は国際裁判における先例(precedent)の位置づけや条約の解釈権限の所在について複数の口頭発表や論文発表を行った。このほかにも、WTO紛争処理改革に係る口頭発表を複数行った。また、国際共同研究の準備を進めるため2020年1月には英国を訪問し、現地の研究者とWTO紛争処理及び投資仲裁の改革についての意見交換を行った。特にランカスター大学においては、WTO紛争処理及び投資仲裁に関わる講演を行った。当初2020年9月に英国に渡航し2021年9月までの1年間ケンブリッジ大学にて共同研究に従事する予定であったが、コロナ禍の状況に鑑み渡航を1年延期することとした。
4: 遅れている
2020年1月の英国訪問までは極めて順調に進んでいたが、コロナ禍のため研究に大幅な遅れが生じている。2020年度9月までに予定していた国際共同研究に関する活動がほぼすべてキャンセルとなっており、10月以降の予定もたっていない。また、2020年9月21日に英国渡航を予定していたが、英国におけるコロナ禍の状況に鑑み1年延期を余儀なくされた。渡航先の機関(ケンブリッジ大学ラウターパクト国際法センター)及び共同研究者(Jorge E. Vinuales教授)からは延期についてすでに了承いただいている。
現時点では、引き続き国際共同研究に向けた準備を日本で進め、2021年9月からケンブリッジ大学での共同研究活動を実施する予定である。ただWTO紛争処理及び投資仲裁の改革に関する国際交渉もコロナ禍のため見通しが立たない状況である。共同研究の成果の発表は大幅に遅れると思われる。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
Chang-fa Lo, Junji Nakagawa, Tsai-fang Chen eds., The Appellate Body of the WTO and Its Reform (Springer)
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