研究課題
(1) サゴヤシ栽培標準手順書の作成-(a) 栽培クイックマニュアルの作成の一環として,効率的な健全苗の育成技術の確立に向けた調査研究を実施した。1) 種子形成メカニズムの解析:栄養繁殖と種子繁殖の両方が可能なサゴヤシ (Metroxylon sagu) では,一般的に栄養系移植が行われるが,定着率が60%と低い。その対応として,活着が良い実生の利用を検討しているが,発芽力のない種子が生じることもあり問題となった。そこで,種子繁殖のみの同属Coelococcus節植物との比較から,種子形成メカニズムを解析した。サゴヤシでは開花後に3つある胚珠の2つが退化して1つだけが発育すると,発芽力をもつ種子を生じることが明らかになった。2) 播種前物理的処理が発芽に及ぼす影響:果実,胚上の種子包被組織の一部,あるいは全ての包被組織を除去した3条件で発芽を比較したところ,全除去処理で発芽率が最も高く,一部除去は僅かに低く,無処理果実では全除去の1/2程度と低かった。現在,発芽後の成長を調査している。-(b) 肥培管理指針の検討:①泥炭低湿地では施肥効果が発現し難いとの報告の一方,ヤシに窒素固定細菌やアーバスキュラー菌根菌(AMF)が内生することが報告されている。そこで,日本で市販されているAMF資材2種を用いて接種試験を行った。接種から2ヶ月後の側根を観察したところ,Rhizophagus irreaularisを含む資材を接種した個体では,菌糸,樹枝状体が,未公開の有用微生物を複数含む資材を接種した個体では,菌糸,樹枝状体と嚢状体が確認できた。②AMFの感染と植物生育への寄与効果は,土壌への施肥量と大きく関わることから,サゴヤシ実生の基本的な対肥料反応性を調査した。その結果,サゴヤシは窒素施肥に対する反応が最も顕著で,リン酸には窒素と併用された場合に反応が大きいことが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では,3年間の実施期間で,(1) サゴヤシ栽培標準手順書の作成-(a) 栽培クイックマニュアルの作成,(b) 肥培管理指針の検討,(2) サゴ澱粉グレーディングシステム確立,(3) サゴ澱粉用途開発,(4)バリューチェーン分析を行い,サゴヤシを真の地域資源として開発して商品作物化し,関連地場産業の育成を通じた食料生産と栄養改善の強化に資することを目的としている。本特設分野研究は,初年は年度途中からの実施となったが,(1)-(a) のための種子形成メカニズムの解析を行うことができ,また,高い発芽率を得るための播種前の種子包被組織の除去といった物理的処理が効果的であることを改めて確認することができた。また,(1)-(b) のため,日本で市販のAMF資材がサゴヤシ根に感染することを示し,既存のAMF技術をサゴヤシ栽培の高度化に向けて活用し得る可能性を示すことができた。さらに,これまでにサゴヤシ実生を用いた施肥への反応を調査した例は(当研究グループの土壌酸度,塩害の試験を除き)みられないが,本年度の試験で実施することができ,基本的な対肥料反応性を明らかにすることができた。また,それらの成果を含めて,2018年12月5日(水)に名古屋大学農学部において,「次世代の農資源利用研究プロジェクツ キックオフ シンポジウム」(主催:名古屋大学大学院生命農学研究科・高等研究院・農学国際教育研究センター・アジア共創教育研究機構,共催:名古屋大学大学院環境学研究科)を開催した。このシンポジウムでは,名古屋大学,宮城大学,立教大学,共立女子大学,愛国学園短期大学,三重大学,倉敷芸術科学大学,愛媛大学からスピーカー,コメンテーター等として参加の他,スカイプを使ってインドネシア・北ルー県知事の参加も得ることができた。
2年目には,(1) サゴヤシ栽培標準手順書の作成-(a) 栽培クイックマニュアルの作成,(b) 肥培管理指針の検討を継続して進めるとともに,(2) サゴ澱粉グレーディングシステムの確立に向けては,生産国の澱粉製造現場ではポストハーベスト設備・技術が一様でなく,澱粉の製造量と品質が農家によって,日によって,季節で大きく異なることを想定し,サゴ澱粉消費ニーズの高まりに対して,関連産業が十分に応えられるよう,澱粉抽出・精製技術の向上を基に,易抽出澱粉と難抽出澱粉をいくつかの水準に分け,グレードで品質が異なる澱粉のラインナップを検討する。また,現在慣習として行われている漂白処理のような化学処理がサゴ澱粉加工特性に対して大きな影響を及ぼすことが考えられることから,利用者側に理解が容易となるサゴ澱粉農産物規格規程の作成を進める。その他,(3) サゴ澱粉用途開発では,異なる澱粉のグレードごとに新たな至適用途開発も取り組む。さらに,(4)バリューチェーン分析では,栽培,澱粉抽出から,精製澱粉の小売,加工業者まで,バリューチェーンの活動ごと(各レイヤー)の強みや問題を明らかにし, (1)~(3)がいかに問題の解決に向けて貢献し得るかを検討する。(1)~(2)は各々標準手順書,指針,規程を国内で作成し,最大生産国インドネシアへの提供を検討して,次年度には,現地でのその試行とモニタリングを行なうことを検討する。(3)は日本国内で実施して成果を関係機関等へ提供すること,(4)は各レイヤーの視察を行なって分析することを想定して各小課題の取り組みを推進する。
インドネシアで開催された国際会議(The 1st International Conference on Sustainable Agriculture for Food Security and Sovereignty, Hotel Horizon Ultima, Palembang, Indonesia),および国際セミナー(International Seminar: Sago feeds the world, Pattimura University, Ambon, Indonesia)に係る出張では,いずれも先方から旅費等で少なからぬ提供を受けたことにより,海外旅費の支出を抑えることができた。次年度使用となった額については,翌年度分として請求した助成金と合わせて成果発表等に有効に活用することを予定する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
SAGO PALM
巻: 26(2) ページ: 37-43
巻: 26(1) ページ: 1-12
Journal of the Saudi Society of Agricultural Sciences
https://doi.org/10.1016/j.jssas.2018.05.004
https://icrea.agr.nagoya-u.ac.jp/jpn/events/seminar/201802os.html
https://www.assia.nagoya-u.ac.jp/events/post_4.html