研究課題
(1)効率的な健全苗の育成技術の確立に向け,1)果実中の種子形成を規定する受粉の様相を理解するため,母樹,実生個体群,周囲の株を対象としてマイクロサテライトマーカー分析を行った。その結果,実生からのPCR産物の塩基配列に種子親になく周囲株と一致するものが確認され,母樹雌性器官と周囲の株の雄性器官から実生が生じた可能性が示唆された。従って,サゴヤシの受粉形態は他家受粉で,受精後に胚珠の退化が起こると考えられた。また,受粉しなかった両性花が単為結果し,無核果実が生じることも窺われた。種子の保存方法としては,密封冷蔵が発芽力を維持する上で有効と考えられた。2)土壌条件が異なる条件でのサゴヤシ根におけるアーバスキュラー菌根菌(AMF)の感染を比較したところ,鉱質土壌では約70%で感染していたのに対し,薄い泥炭で40%と少なく,厚い泥炭土壌では約5%と著しく低いことが明らかになった。しかし,元々の土着菌による菌根形成率が30%を超えると,接種効果が著しく低いとされており,感染率の低い厚い泥炭土壌の圃場では,AMF接種によるサゴヤシの生育を改善できる可能性があるとも考えられた。(2)サゴ澱粉グレーディングシステムに関しては,乾熱時間により粘度を低く制御できる物性調整技術の知見が得られ,澱粉の食品化学面のグレーディング技術については,カルボキシル基や粘度がカギであることが窺われた。(3)サゴ澱粉用途開発では,グルテンを含まないサゴ澱粉にグルテンが少ない作物の穀粉を添加することで,外観・食感ともにパスタに近い麺状食品が作れるという結果を得た。(4)バリューチェーン分析については,インドネシア東部からのサゴ澱粉集積地であるスラバヤにおいて,マルク諸島等で製造したレンペン(練って焼き上げた食品)を再加工し,別用途に利用している取り組みについて,商品価値が数倍に高まっている実績を調査した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では,3年間の実施期間で,(1) サゴヤシ栽培標準手順書の作成-(a) 栽培クイックマニュアルの作成,(b) 肥培管理指針の検討,(2) サゴ澱粉グレーディングシステム確立,(3) サゴ澱粉用途開発,(4)バリューチェーン分析を行い,サゴヤシを真の地域資源として開発して商品作物化し,関連地場産業の育成を通じた食料生産と栄養改善の強化に資することを目的としている。2年目には,(1)-(a) のための種子形成メカニズムの解析の中で受粉様式を解明し,花粉供給の実態を明らかにすることができた。果実・種子の保存方法についても基礎的な試験を得た。また,(1)-(b) のため,サゴヤシ原産国において,土壌条件の異なる環境に生育するサゴヤシの根へのアーバスキュラー菌根菌の感染率に変異があることを明らかにし,種の同定に向けた解析も進めることができた。異なる土壌水分条件における光合成や養分吸収,物質生産に関する調査を行った結果,湿地への適応性が高いと考えられているサゴヤシであるが,根圏の半分程度の深さまで地下水位がある条件で生理機能・物質生産能が高く,根圏の80%の深さまで推移を高めると生理・成長形質は低下するものの,一定の生育量は確保できることが明らかとなった。(2) については,物性調整技術の可能性を示した上で,グレーディング技術開発に向けてキーとなる形質についての知見を得ている。(3) については,市場,消費者からの要望の高いグルテンフリーパスタの製造に向けた実験に成功した。(4) のバリューチェーンに関しては,具体的に最終製品としての食品の価格を3ないし4倍に高める取り組み例の調査を行った。先進事例として継続を可能とする方策の提案や,モデル化に向けた課題の解析につながると期待できる。
最終年には,(1) サゴヤシ栽培標準手順書の作成-(a) 栽培クイックマニュアルの作成,(b) 肥培管理指針の技術的検討を継続して進めるとともに,(2) サゴ澱粉グレーディングシステムの確立に向けては,2 年次で抽出したキー形質の物理物性調整への貢献について,解析を進める。また,易抽出澱粉と難抽出澱粉を3段階に分けて準備し,それらの物理的・化学的の特性を明確にし,グレードで品質が異なる澱粉のラインナップを用意した場合の至適な利用について技術的要素を整理する。一方,現在の慣習となっている漂白といった化学処理がサゴ澱粉加工特性に及ぼすと考えられる影響について継続して検討し,サゴ澱粉の利用者側に十分な理解が得られるようなサゴ澱粉農産物規格規程の作成方針を提案する。 (3) サゴ澱粉用途開発では,これまで行ってきた新規の食品への利用に関して,技術化を図るとともに,製造のスケールアップとコストのバランスを分析する。(4) バリューチェーン分析では,栽培,澱粉抽出から,精製澱粉の小売,加工業者まで,バリューチェーンの活動ごと(各レイヤー)の強みや課題へのソルーションを明らかにし, (1)~(3)がいかに問題の解決に向けて貢献し得るかについての解析を進め,取りまとめる。
2019年度の第4四半期は,感染症の拡大により海外への渡航が困難となり,予定していた調査等を見合わせ,実施可能となった時点で行うこととした。
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Plant Production Science
巻: 24 ページ: in press
Journal of the Saudi Society of Agricultural Sciences
巻: 19 ページ: 37 - 34
https://doi.org/10.1016/j.jssas.2018.05.004