研究課題/領域番号 |
18KT0080
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
秋谷 直矩 山口大学, 国際総合科学部, 准教授 (10589998)
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研究分担者 |
南 保輔 成城大学, 文芸学部, 教授 (10266207)
西澤 弘行 常磐大学, 人間科学部, 教授 (50296068)
佐藤 貴宣 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(PD) (50737070)
坂井田 瑠衣 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 准教授 (90815763)
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研究期間 (年度) |
2018-07-18 – 2023-03-31
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キーワード | エスノメソドロジー / 会話分析 / 視覚障害 / 歩行訓練 / 複合感覚性 |
研究実績の概要 |
本年度は、歩行訓練場面における視覚障害者と歩行訓練士の相互行為の組織内生的に「感覚」が可視化され、またそれがさまざまな行為を紡ぐ資源として用いられる手続きの分析に注力した。 「感覚」は通例、個人の生理的あるいは心理的現象として検討される。しかし、他者とのやりとりにおいては、自身が身を置く環境において他のものから特定の事物や出来事をハイライトする感覚を通して特定の何かを知覚したこと、このことを発話や身振りを通して他者にもわかるように示すこと(あるいはそうであることが発話や身振りによりわかってしまうこと)がある。この点からすれば、「感覚」は個人にのみ常に還元されるものではない。とりわけ歩行訓練という教示と学習に指向した場面では、その都度の「感覚」を何らかの手段によって示し、かつそれに対する理解を示し合うことに参与者は方向付けられている。 以上の観点により分析を進めた結果、従来、個人に属する能力の点から主に議論されてきた視覚障害者の単独移動の能力について、歩行訓練のもう一方の参与者である歩行訓練士や、そのやりとりを見聞きする分析者のいずれにもアクセス可能な「(発話のデザイン・タイミング、身振り、道具の使用などの)方法」を見出すことができた。 相互行為の組織内生的な感覚についての議論は、近年のエスノメソドロジー・会話分析の分野においては「複合感覚性」概念のもとで議論が展開している。この議論は、心理学や認知科学において中心的に議論されてきた感覚や知覚の議論を相互行為の組織内生的な達成として再特定化する議論の文脈上にもあるものである。本研究もまたこの「複合感覚性」に関する議論の系譜に位置付けうるものであることも本年度の研究で示した。そこから、心理学や認知科学の先行する取り組みについて本研究が具体的にいかなる意義を有するものかは今後の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は本来であれば前年度で終了する予定であったが、感染症流行により調査・分析作業や成果発表に支障が生じたため、延長して本年度も実施することとなった。 当初の目的では、本年度は成果発表を中心に行う予定であった。感染症流行が続くなかで、遠隔による成果発表の体制が各学協会において整ってきたこともあり、本年度は複数の国内外の学会・研究会にて研究成果を報告することができた。 感染症流行により新規調査を実施することはできなかったが、これまでに収集したデータは量としては過不足ないため、本研究の遂行においては大きな問題にはなっていない。 しかし、やはり感染症流行により本研究についてのプロジェクト内の議論や成果発表に関係する作業にはさまざまな支障が生じたため、その点をカバーすべく、次年度も延長することとした。 以上により、本年度は「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究プロジェクトは本年度で終了予定であったが、感染症流行収束の兆しが見えず、結果としてプロジェクト内の議論や成果発表に関係する作業にはさまざまな支障が生じたため、もう1年延長することとした。 現況を鑑みて、新規調査の企画と実施は難しいと予測される。そこで今後は、分析作業と成果発表に注力する。本年度は分析作業と成果発表に注力した結果、本研究がエスノメソドロジー・会話分析における「複合感覚性」についての議論に接続して展開可能であることが見出された。本年度の分析作業と成果発表はこの点も押し進める。また、心理学や認知科学に対する本研究の意義についての議論も継続して行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、感染症流行収束の兆しが見えず、分析作業と成果発表に支障が生じた。そこで、当初は本研究は本年度で終了予定であったが、1年延長することとした。次年度使用額が生じた理由は以上のとおりである。 次年度は、分析作業と成果発表に注力するために、分析作業に必要な物品・消耗品と旅費として研究費を主に使用する予定である。
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