研究概要 |
本研究では,地域的環境変化(富栄養化・魚の放流)と広域的環境変化(富栄養化・大気降下物)の履歴の異なる山岳湖沼を対象に,各環境変化に対する生物応答の違いを,堆積物コアを用いた長期的な解析から生物の進化的応答を含めて明らかにすることを目的としている.今年度は,広域的環境変化のの影響を受けていると考えられる,八幡平山頂に位置する八幡沼と森林に囲まれた蓬莱沼を対象に,堆積物コアを採取し,放射性同位体Pb,Csによる年代測定,環境条件の指標として,T-P(総リン量),炭素・窒素・硫黄の安定同位体比の測定,生物指標として,動植物プランクトン(枝角類・珪藻)の遺骸,動物プランクトンDaphnia休眠卵数,各藻類由来のカロチノイド色素量の測定を行った。 分析の結果,蓬莱沼では,深度5cmの1950年頃,T-Pが急速に3倍程に増加し,植物プランクトン(各カロチノイド色素の含有量)も一致して2-3倍増加していることが判明した.一方,動物プランクトンのAlona,Daphnia遺骸の現存量は長期的な変化はほとんど見られなかった.八幡沼に関しては,T-Pの大きな変化は見られなかったが,植物プランクトンは1980年頃,一時的に大きく増加した.これに対し,動物プランクトンのDaphniaは100年以上前から徐々に増加しているが,Daphnia休眠卵量は100年頃前に大きく減少していることが明らかになってきた.興味深いことに,休眠卵が減少する頃は,各植プラ由来のカロチノイド色素(Fucoxanthin,Diatoxanthin,Lutein,Zeaxanthin,Echinenon)の種構成も変化することが判明した.次年度は,これら近過去に生じた動植物プランクトンの変遷について,DNA解析や競争・繁殖特性を明らかにするための培養実験を通じてより詳細な解析を行う。
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