本年度の研究成果として、平成20年11月1日、田尻芳樹、山田広昭、星埜守之が中心となり、東大駒場キャンパスにて「モダごズム受容の諸相-『詩と詩論』とその周辺」というシンポジウムを開催した。第1セッション「春山行夫再考」では、田尻が英文学のモダニズムの活発な受容者としての春山行夫を論じ、この詩人、批評家の英文学受容への貢献とその特質に光を当てた。湯浅博雄、宮下志朗は、モダニズムが日本近代文学の批評、翻訳理論にどのような影響を与えたかを討論した。第2セッション「『詩と詩論』をめぐるコンテクスト」では、山田が、春山の編集していた雑誌『詩と詩論』がヴァレリーの紹介に力を入れていたことをふまえ、日本におけるヴァレリーの受容を再検討し、星野がやはり『詩と詩論』におけるシュールレアリズムの受容の特殊性を論じた。さらに佐藤元状(慶応大学)が『詩と詩論』にアヴァンギャルド映画論を書き続けた飯島正の足跡をたどり、脇田裕正(東京大学)が『詩と詩論』と春山が敬遠したコンラッドの日本における受容について、豊富な一次資料をもとに詳しく論じた。ヨーロッパのモダニズム、アヴァンギャルドの日本での受容の問題はこれまでも様々に論じられて来たが、『詩と詩論』に焦点を合わせた研究はまだ少なく、その中心人物春山行夫の貢献はほとんど忘れられている。このシンポジウムはそのような欠落を補う刺激的で意味深いものだったと言える。また詩、批評、西洋文学論、映画など多様なジャンルを横断的に論じることができたのも、本科研の趣旨にふさわしいものだったと言えよう。
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