本研究は、沖縄県国頭郡伊江村に保管されている阿波根昌鴻氏(故人)の個人資料を学術的に活用し、その多様かつ詳細な歴史記録に依拠しながら、沖縄戦後史研究の発展を図ることを目的とし、詳細な資料目録の作成を通じて当該資料を検討し、行政資料や占領資料とは異なる観点からの沖縄戦後史研究の視座の提供を目指している。また、併せて当該資料に関する資料保存学的検討も実施し、保存環境の整備、破損・劣化資料の修復等も実施している。 平成21年度においては、(1)2度の現地調査による当該資料群の目録化作業並びに保存環境整備、(2)当該資料のうち学術的価値の高いものについて複製資料作成、(3)阿波根昌鴻氏関係者に対して実施した聞き取り調査の活字化、(4)シンポジウムの実施、等の研究活動を実施した。 (1)のうち、目録化作業は前年度同様、1つの箱に大量の資料が保存されているものが多かったため、作業速度の向上は困難だった。他方、当該資料群の保存環境に関するデータの恒常的収集を継続した。(2)については、集積した画像データを基にした複製資料の作成を実施した。(3)については、前年度までに実施した聴き取り内容の活字化を、順調に遂行した。(4)については、3年間の研究成果の社会還元として開催し、調査関係者以外の方の基調講演を含め、充実したシンポジウムとなった。 これら活動により、戦後沖縄の平和運動に関する多面的な考察が着実に進んだものの、その資料群の膨大さから未着手のものも多数残った。また、資料の内容に関する実証的研究については、最終報告書までにまとめる予定である。
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