研究課題
当該年度においては、理論的、実証的双方の次元において、研究は順調に前進した。理論的には、宗教の定義について、歴史研究の場合の特殊性と問題点が明らかになった。過去の史料という限界から、歴史研究では心性次元に踏み込むことが難しく、行為として表面化した事実に依拠せざるを得ないことが、改めて認識され、それをどう方法的に解決するかが、研究チーム内の論議の焦点となった。方策として提起されたのが、宗教をデュルケーム的に広義に捉えることによって、いわば「広さ」で「深さ」を補うという方策について論議した。実証的には、多くの国について、宗教が集合的アイデンティティと結びつく傾向があることが認識された。とくに注意を要するのは、近代においては、西洋へのアンチテーゼとして自己の民族的・文化的独自性を打ち出す際に、宗教が大きな役割を果たした点である。またその場合、宗教が西洋文明への対置物として、自己を進んで「聖なる野蛮」の地位に置くという傾向も見られたことは興味深い。加えて、「野蛮」像には、周辺世界との関係でまたニュアンスがかなり異なる(たとえば、西欧に直接対抗する位置にあるロシアやドイツの場合と、アジアへの対抗を同時に含む日本の場合との差)ことが論議になった。宗教の持つ政治的機能については、従来も指摘は多いが、それがグローバルな位置関係のなかでどう変移するかという指摘は、当研究が新たに開拓した視点である。その意味で、当研究のもつ重要性は大きく、その終結と研究結果には、今さらながら大きな期待がかかるのである。
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パブリック・ヒストリー 6
ページ: 16-29