研究概要 |
偏微分方程式の逆問題とは、偏微分方程式が与えられている領域の未知境界や偏微分方程式の未知係数を、散乱データや領域の既知境界における観測(以下観測データとよぶ)などから決定する問題であり、工学の分野をはじめとして数理科学に広く内在する基本的な問題としてその解析が求められている。本研究では、逆問題として上に述べたような偏微分方程式の未知境界同定問題と未知係数同定問題とに的をしぼり、未知境界や未知係数を観測データから構成するスキーム(以下逆問題の解の再構成とよぶ)について研究することを目的とする。 当該年度においては、当該研究課題の一つであるthermographyの数理について研究を発展させた。研究内容の詳細の概要は、次の通りである。flush lampを用いたactive thermographyの計測は極めて短時間で行われ、熱は急速に拡散され、熱を負荷する以前の状態に戻るので、この場合の計測は多重回繰り返すことが可能である。しかもこれらの計測データを重ね合わせることが可能であるので、物体表面上に任意のheat fluxを加え、その結果生じる物体表面の温度が計測可能と理想化して構わない。つまり物体表面上に定義されるNeumann-Dirichlet mapが計測データとして与えられるものとして構わない。研究代表者は、このNeumann-Dirichlet mapを計測データとしたきに、この計測データから物体内の未知介在物等を同定するdynamical probe methodと呼ばれる再構成法を確立し、その有効性を数値実験により検証した。(Annali Normal Superior Pisa掲載予定)、(J.Computational Math.掲載予定)dynamical probe methodには、これまで知られていなかった不連続係数を持つ熱作用素に対する基本解の空間勾配の各点評価を必要とする。介在物が接していない場合には、Ladyzenskaya-Rivkind-Uralceya(Tudy Mat.Inst.Stekov., 92(1966)132-166)の解の内部評価の議論を修正するか、または不連続係数を持つ発散型楕円型方程式(系)に対する解の勾配の各点評価の議論を、不連続係数を持つ熱作用素に適応する議論を構築することにより示すことが出来る。
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