本研究の目的である即発中性子減衰定数(未臨界度の指標)の実時間測定を達成するために、データ処理法の検討を行なった。本研究の分担者・北村康則が約10年前に開発した放射線検出時刻データ収集システムの制御プログラムに、ロッシ・アルファ測定による即発中性子減衰定数の連続測定プログラムを組み込み、検出器からの中性子信号を逐次処理して、100ms毎に即発中性子減衰定数を評価できる試作装置を開発・製作した。ついで、京都大学原子炉実験所の熱中性子炉体系を測定対象にして、この試作装置の実証試験を行なった。中性子吸収体(制御棒)の炉心への挿入量を変化させて、未臨界度を変化させた。さらに、未臨界度が一定の定常状態の場合と、未臨界度が数秒間の間に変化する過渡状態の場合とを測定対象とした。定常状態の場合は、開発した試作装置で、即発中性子減衰定数を5〜10%の精度で測定できることが示された。一方、過渡状態の場合は、未臨界度を変化させる制御棒の動きに、即発中性子減衰定数が追随して変化することは確認できた。しかし、計数値の統計量が少ない場合は、推定された即発中性子減衰定数がばらつき、推定精度の悪いことが示された。従って、過渡応答性を高めるために、検出器の感度を上げるなどの計数値の統計精度を高める工夫が、今後の課題である。 開発した測定アルゴリズムに基づく試作装置の加速器駆動未臨界炉への適用性を検討するため、理論的検討を行なった。2年前に開発した検出器インポータンス理論をロッシ・アルファ法に適用して、即発中性子減衰定数の評価に必要な相関中性子成分の検出確率を計算する新しい手法を導出した。この手法に基づいた計算によると、中性子の統計量を上げると共に、相関中性子成分の検出確率を高める工夫の必要なことがわかった。
|