研究概要 |
ABA8'水酸化酵素はチトクロームP450酵素であり,Uniconazole(UNI)およびPaclobutrazolなどトリアゾール系化合物により制御可能である。しかしながら,これら化合物はジペレリン合成などにも影響を及ぼすことにより樹体発育や果実成長にも影響するため,幅広い用途には応用しがたい面がある。本研究では,UNIおよびUNIに比べABA8'水酸化酵素に特異性が高いと考えられる新規に合成したAHI1についてリンゴ実生を供試し,水分ストレス耐性向上への可能性を検討した。 60日齢のリンゴ‘つがる'の播種実生を供試した。温度27±1℃,相対湿度70±5%,光条件10001uxの条件下で,UNI,(+)-AHI1,(-)-AHI1の各々を50ppmの濃度で実生全体に散布処理した。無処理区は蒸留水を処理した。24時間後,水分を含有しないバーミキュライトに処理した実生を移植し,3,6,12および24時間後に採取し,気孔開度(TM-1000;HITACHI),水ポテンシャル(WP-4,Dacagon)および内生ABA濃度の測定を行った。ABA濃度の測定は前報(Plant Growth Regulation,52:199-206,2007)に従い,GC-MS-SIM(SHIMAZU,QP-5000)により行った。 各散布処理24時間後(水分ストレス開始前)の内生ABA濃度は,UNIでもっとも高く,次いで(-)-AHI1であり,しかし(+)-AHI1と無処理は差が無かった。ABA濃度は水分供給区ではほとんど増加しなかったが,各散布処理とも水分ストレスの経過時間とともに増加し,水分ストレス開始12時間後には(-)-AHlおよび(+)-AHI区の濃度が高くなった。その後,これらのいずれも水分ストレス開始24時間後には無処理より減少した。一方,UIN処理区のABA濃度は水分ストレス処理開始後の測定期間を通じて無処理より低下した。UNI処理区では葉に薬害症状が観察されたため,この関連が推察される。水分供給下での各散布処理区の気孔開度はUNIでもっとも小さく,12時間後まで減少し,その後増加した。(-)-AHI1区では24時間後まで低下し,その後増加した。48および72時間後ではこれら両処理区間に相違は無かった。一方,(+)-AHI1区での気孔開度の低下は,他2区に比較し小さかった。水ポテンシャルの程度も各散布処理によって維持された。
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