本研究は魚類卵黄形成の新たな概念である卵黄蛋白前駆物質(ビテロジェニン:Vg)の多型性に着目し、従来のVg検出・測定法の改良を目指すとともに、その構造的および生理学的な特性を明らかにし、魚類の卵黄形成機構に更なる基礎知見を加えることを目的としている。H21年度は、1)原始的魚類のVg cDNAのクローニング、2)ボラの多型Vg測定系の確立、3)組換えイトヨVg蛋白と特異抗体の作製を行った。 前年度に続き、ヌタウナギの2型Vgについてクローニングを行い完全長の配列を得、他魚種のVg配列との比較を行った結果、ヌタウナギの両Vgは共に近縁種のヤツメウナギVgと最も近いクラスターを形成した。さらに各Vg遺伝子のプロモーター領域のクローニングを行い、モチーフ解析を行った結果、エストロジェンを起点としたVg遺伝子の発現制御に関与すると考えられるモチーフが多数見つかった。サメのVgは1型のみクローニングが可能であったが、全長の配列を得るまでには至らなかった。 ボラの3型Vgに関して、各々のサブタイプに特異的な化学発光免疫測定法(CLIA)を確立した。また、近縁種のメナダについて、ボラで作製した抗体を用い主要なVgサブタイプ(VgB)を同定し、同Vgに対する免疫測定法(Mancini法、CLIA)とリアルタイムPCR定量法を確立した。 イトヨのVgAとVgB cDNAを鋳型として、そのC末端部分とターゲットとした組換えペプチドを作製した。各組換えペプチドを精製後、家兎に免疫し抗体を作製した。各抗体は各々のカウンター抗原での吸収操作の結果、各抗原に特異的であることが確認された。 本年度の研究により、1)原始的な魚類におけるVgにも多型性が確認されたが、進化的な魚類における3型Vgのサブタイプに分類されないこと、2)魚類で初めて3型のVgサブタイプに特異的な免疫測定系が確立されたこと、3)暴露試験等で良く用いられるイトヨの多型Vgに対しても、サブタイプ特異的な高感度測定系を確立する準備ができた。これらの成果は魚類のVgの多型性を考慮した正確な測定系による環境評価や新たな卵形成モデルを構築することに繋がる成果として、重要で意義があると考えられる。
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