臨床研究では、グルタミン酸神経機能の評価として聴覚ミスマッチ陰性反応(Mismatch Field: MMF)を記録している。平成20年度においては高密度306チャンネル脳磁図計を用いて、久山町より募集した被験者を含む健常ボランティア24名(男性10名、女性14名)、双極性障害患者5名(男性2名、女性3名)の視覚ミスマッチ陰性電位を記録した。双極性障害患者は健常者と比較してv-MMNが減衰しており、視覚情報自動処理の異常の可能性が示唆されたが、その程度は統合失調症患者よりも軽かった。ペア声刺激を用いたP50mの検索により、類似した病像を呈すことがある双極性障害と統合失調症の感覚フィルタリング機構障害に対するより詳細な評価が可能であり、生物学的基盤に基づいたさらなる病態解明が進むことが予想される。 基礎研究では、昨年度報告したlipopolysaccharide(LPS)全身投与につづき、強制水泳ストレス(FS)および拘束ストレス(RS)による転写因子Fosの誘導パターンを分析した。内側前頭前皮質(辺縁下皮質、辺縁前皮質)、側坐核、外側中隔核、分界条床核、視床室傍核(前部および後部)、視索前域(外側野、内側野)、視床下部前野・背内側核・副内側核・後核、梨状皮質、扁桃体(基底外側核、基底内側核)、嗅傍皮質、嗅内皮質、海馬台(腹側)、海馬(背側、腹側)、水道周囲灰白質(腹外側部)、脚橋被蓋核、橋核、大細胞性縫線核、背側被蓋核、青斑核、といった多くの領域でc-Fosの発現が見られた。 対照的に、FS負荷を行った場合には、明確にc-Fosの発現が見られたのは、内側前頭前皮質、視床室傍核(前部)、海馬台(腹側)、海馬(腹側)に限定されていた。FS負荷によるc-Fosの誘導を調べた先行研究は多いが、このような比較は少なく、とくにマウスでは我々め知る限り、先例はない。
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