研究概要 |
研究代表者の塚本は,日本語と朝鮮語における語彙的複合動詞について対照言語学からのアプローチで考察し,次のことを明らかにした。日本語の語彙的複合動詞における前項動詞と後項動詞の組み合わせについては,項構造のように統語論レベルに依拠するだけでは適切な記述・説明を与えることができず,そうするためには,どうしても意味構造のように意味論レベルにまで踏み込まなければならない。それに対して,朝鮮語における同じ対象について記述・説明するに当たっては,統語論の範囲内で処理することが可能であり,意味論にまで言及する必要がない。 また,研究代表者の塚本は,日本語と朝鮮語における文法化と形態・統語的仕組みの関係について次のことを明らかにした。文法化については,日本語では文法化が生じている言語現象が比較的多いのに対して,朝鮮語ではそういった言語現象が比較的少ない,という両言語間の相違を導き出すことができ,形態・統語的仕組みについては,日本語には語と節・文が重なり合わさって融合している性質のものが存在するのに対して,朝鮮語では語なら語,節・文なら節・文といったように語と節・文の地位を明確に区別する仕組みになっている,という両言語間の相違を導き出すことができるが,前者の文法化に関する両言語間の相違は,後者の形態・統語的仕組みに関する両言語間の相違というさらに根本的な要因と強く結び付いており,これに由来したものである。 さらに,研究分担者の堀江は,日本語と朝鮮語における文末名詞化構文(特に,日本語の「のだ」と朝鮮語の「???<kes-ita>」)の談話・テキスト機能について,「主観化」及び「間主観化」(Traugott 2003)の概念を援用し,朝鮮語に比べて日本語における文末名詞化構文の方が間主観化の方向により進化している傾向があることを明らかにした。また,この傾向は,文末名詞化構文にとどまらず,使役構文など他の構文でも見出されることを論証した。
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