本研究課題は、現在のルーマニアの主要部分を成すワラキアとモルドヴァに焦点を当て、国際関係史の観点から、18世紀後半から19世紀前半の時期を中心に、この二力国の、拡大する西欧世界への包摂過程と、同時に同地域を通じて、周辺の両大国ロシアとオスマン帝国が、西欧世界との関係を緊密化させる過程を、西欧・ロシア・オスマン帝国それぞれの一次史料に基づき、実証的に明らかにしようとするものである。このような目的のために最も重要なことは、関係する一次史料の収集と分析であり、初年度である今年度は、本研究課題に関する先行研究の整理を行う作業と平行して、早速ルーマニアとトルコにおいて、史料調査・収集を実施した。平成19年10月末から11月にかけて実施したルーマニアでの調査では、首都ブカレストにあるルーマニア国立文書館とブカレスト大学中央図書館において、それぞれ18世紀後半のオスマン・ルーマニア関係に関するオスマン史料(マイクロ)と、本邦には所蔵されていないルーマニア語研究文献を収集することが出来た。また平成20年2月下旬に行ったトルコにおける調査では、イスタンブルの総理府オスマン古文書館において、主にHatt-I Humayun分類中の、18世紀後半-19世紀初頭のオスマン帝国とワラキア・モルドヴァ関係、及びオスマン=ロシア、ハプスブルク外交関係に関する文書史料を入手し、今後の研究の足掛かりを得ることが出来た。先行研究に関しては、国内の本課題関連書籍・論文の収集と、ルーマニア調査時に集めた文献を整理している段階であり、次年度の前半くらいまでにこの作業を終わらせる予定である。また、実質的な研究開始時期が秋であったため、ブカレストとイスタンブルで収集した一次史料を現在分析中であるが、18世紀末頃までに、ワラキア・モルドヴァ問題がオスマン帝国とロシア・西欧諸国間の重要な外交問題として浮かび上がったことが改めて確認できた。
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