本研究は、これまで指摘されてきている英語の「結果志向」と日本語の「過程志向」という傾向性を、言語構造の様々なレベルで再考察し、英語と日本語の言語構造の背後にある思考体系を明らかにすることを目的としている。平成20年度は「有界性と無界性」「好まれる事態把握」に焦点を当て、「結果志向」と「過程志向」という思考パターンを認知の傾向性という観点から捉え直し、主に動詞の意味構造で論じられることが多かった英語と日本語の「結果志向」「過程志向」をより包括的に検証した(語・句・文・談話・文化コミュニケーションの各レベル)。 言語と思考の関係について、従来の言語相対論では、「ある思考が存在するのはこのような言語表現が存在するからである」「ある言語表現が存在するのはこのような思考が存在するからである」という両者を行ったり来たりする循環論法に陥ることが多く、その全体像を的確に捉えることは難しかった。ところが、認知言語学の興隆により、言語はく人間〉の認知的な営みの産物であるということが明らかとなり、無数に存在する言語以外の文化的構築物(例えば「絵画」「庭園」「家屋」「法制度」「スポーツ」など)と言語および思考の相同性を丹念に検証することでより実証性の高い研究を推進することが可能となったのである。本研究で設定した各言語レベルでも、「好まれる事態把握」に基づく有界的あるいは無界的な認知が、それぞれ英語を「結果志向」として、日本語を「過程志向」として特徴付けていることを実証した。これにより、これまで断片的にしか論じられてこなかった志向性の顕在に関する議論に対し、志向性は各言語レベルを横断して一貫して観察されるという新たな論点を提供した。
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