本研究の目的は、(1)日本中世法制史に関する基本的な公刊史料を検索対象として、「所務沙汰」(不動産訴訟)、「検断沙汰」(刑事訴訟)および「雑務沙汰」(動産訴訟)及び和与(和解)に関連する史料を網羅的にリストアップし、ついで、(2)そこで検出された史料群を地域別、裁判権力(紛争解決主体)別等の基準で分類整理する。そして、(3)当該史料群を素材に、重要なテーマでありながら、これまで本格的な研究のなかった中世における裁判外紛争処理の実態について、これが裁判制度自体に対してどのような役割を果たしていたのかという問題関心の下で、紛争処理手続過程における両者の関係について全面的に解明し、最後に、(4)こうした検討作業をつうじて、中世における紛争処理の制度と実態に関する先行学説の全面的整理および再検討を実証的に行い、本研究課題についての新たな展望を導き出すことである。 平成21年度には、前年度までの検索作業を通じて検出、蓄積された「悪党」~「和与」にいたる100のキーワードに関する史料データを主たる対象として、研究代表者が分担研究者の助言・助力を得ながら研究課題についての検討作業を行った。いまだその直接の成果を論文にまとめるには至っていないが、研究の副産物として日本法制史概説書(共著)の中世部分の原稿(近刊)、および中国法制史上の重要概念たる「法」「律」「礼」「刑」「徳」の文字の起源に関する研究史を整理した中国語論文(共著、近刊)の執筆を行った。また、2008年6月には「マックス・ヴェーバーにおける歴史学と社会学」をテーマとするシンポジウム(於奈良女子大学)の討論に参加した。その際の私の発言部分は2009年公刊の当該シンポジウム記録に収録されている。引き続き研究課題に関する研究を継続しており、早急にその成果を論文にまとめる予定である。
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