ドイツ民法典における1997年の親子法の全面改正により、親権の濫用があった場合には裁判所が「意思表示」を代行しうる旨の規定が新設された(1666条3項)。この規定の「意思表示」には、治療行為への同意や、さらには診療契約の締結行為も含まれると解されており、親権者による医療ネグレクトに対する司法的介入に際しての具体的な権限や方法に関して、実定法上の根拠がドイツで初めて示されたということができる。また、介入措置を終局決定する以前に発令される「仮命令」は、新設された規定にも明文化されていないが、判例は、本案手続を経た終局決定を待つことが子の福祉を危殆化する場合には、明文の規定なくして仮命令を発することができるとする。そのうえで、仮命令の決定に際しては、非訟事件手続法によれば、親や子に対して事前に「聴聞」手続をとることが必要とされるが(50条a1項、50条b1項)、いわゆる「遅滞による危険」(Gefahr im Verzug)が生ずる事案に関して、聴聞手続を省略しうるとする判例も出ている。以上の点との比較法的見地から、研究協力者・永水裕子・桃山学院大学法学部講師のサポートを得つつ、日本の医療ネグレクト事案に係る親権喪失宣告及び保全処分の審判例を検討した。 加えて、研究協力者・空閑浩人・同志社大学社会学部准教授とともに、医療ネグレクトをめぐる生命倫理のあの方について、ソーシャルワークの視点から検討を行った。
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