本研究の目的は、戦略的人的資源管理(SHRM : strategic human resource management)の観点から、工場組織と競争優位との関連を調査することである。製造業においてもの作りが行われている現場である工場のなかでは、機械・設備・建物等が配置され、稼働しているだけでなく、そこは様々な多くの人々が働いている職場であり、そのような人々が協働し、組織を形成している。工場における人々の組織のなかで実施されている作業慣行が、競争優位、具体的には製造成果指標ともいえるQ(quality : 品質)、C(cost : コスト)、D(delivery time : 納期)といかに関連しているかを、本研究では調査をする。 調査は、戦略的人的資源管理の既存研究に基づいて、リサーチクエッションを設定して、フィールドワークによる定性的研究、アンケート調査による定量的研究によって実施された。調査対象には、電機製品を組み立てている日本に所在する工場組織が対象になった。作業や組織を実践するための人的資源管理の慣行、つまり「HRM(人的資源管理)の慣行」の体系は、製造品質との間でのみ「直接関係(direct relations)」はみられた。また、製造技術の形態、つまりライン生産かセル生産かという製造形態に依存して、HRMの慣行の体系は、リードタイムとの間で「調節的関係(moderated relations)」がみられた。また、HRMの慣行の体系は、製造技術の形態を媒介(mediator)として、仕掛かり在庫の量と関連していた。戦略的人的資源管理の研究が進んでいる米国などの研究によると、HRMの慣行は、一貫して、企業成果、例えばROE(自己資本利益率)などと関連していた。しかし、本研究によると、HRMの慣行は、企業成果の根源となる製造成果のような操業的成果とも強い関連がなかった。フォローアップ調査に基づけば、その理由の1つは、製造現場の組織における慣行だけでなく、そこの人々を支援するエンジニアの役割、管理者の役割が製造成果に対して重要であることである。
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