数多くの技術システムの事故事例について文献資料から情報を集めて整理した。また、詳しい事例研究が存在する事故については、それらの事例研究を詳細に検討した。さらに、技術システムの事故や安全に関する理論的先行研究についても調べ、関係理論について吟味し、理論的課題についての検討も行なった。これらの研究の一部を論文にまとめた(国民経済雑誌2008年4月号)。 また、これらの先行研究の分析をもとにして、「技術の社会的形成」アプローチに依拠しつつ、技術システムの安全と組織・制度・管理プロセスの関係について仮説を構築した。この仮説の基本的な考えは、技術システムの事故の原因は単なるヒューマンエラーではなく、ヒューマンエラーを誘導するような技術的要因と社会的要因、ヒューマンエラーを事故に結び付ける技術的要因と社会的要因、事故が発生した時にその被害を拡大する技術的要因と社会的要因があるというものである。そして、これらの要因には特徴的な性質・傾向があり、その性質・傾向とその危険な結合形態について明らかにすることで、事故の回避についての有益な知見が得られるのではないかというものである。この仮説の社会的要因としては、特に、組織・制度・管理プロセスに注目する。この基本仮説に基づいて、技術的要因、社会的要因、ヒューマンエラー、事故、安全などについて、より具体的な作業仮説を対象領域ごとに策定していくこととした。 対象領域としては、技術的要因と社会的要因との連関が複雑で、われわれの生活に重要不可欠でありながら潜在的に危険性が高い分野ということで、鉄道、航空、医薬・医療、化学プラントという4つの産業領域を事例研究のフィールドに選んだ。そして、企業などへの聞き取り調査や見学などを含め、安全管理の実態や事故の事例などに関するデータ収集を開始した。
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