中学校や高等女学校への進学率が、1920年代で10%程度であったことからもわかるように、中学校や高等女学校に通うということは、経済的にも文化的にも恵まれた階層に所属していることを示していた。そしてそのことは、学校卒業後の進路、さらには結婚後の役割が男女で大きく異なっており、男子は社会的地位を獲得して一家の長として妻子を扶養し、女子は主婦として家事・育児を担っていくことを意味していた。このような性別による役割期待の相違を考えるならば、中等教育機関における教育内容や生徒たちが親しむ文化が性別によって異なることは、当然予想できる。しかし実際に研究を行ってみると、当初予想していた以上に、多様なジェンダーによる教育の相違が明らかとなった。すなわち、中学校や高等女学校の教科書の内容や教育雑誌などに掲載された記事を分析すれば、中学校と高等女学校におけるカリキュラム上の違いを超えて、具体的な教育内容や各教科の意味づけの相違が存在していた。また、中学生や高等女学生が愛読した少年雑誌や少女雑誌からは、「少年らしさ」や「少女らしさ」の内実や友情に対するとらえ方の違いが見て取れた。これらの知見はこれまでの研究において十分に解明されてこなかった点であり、このような中等教育におけるジェンダーのありようを具体的に明らかにしえたことが、本研究の意義であるといえる。
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