研究概要 |
境界付きリーマン多様体において、ラブラシアンの固有値と固有関数の境界値から、多様体内部の幾何学的情報が得られるか?というスペクトル逆問題について調べている。この問題はリーマン幾何における逆固有値問題とCTスキャン、工学の非破壊検査等の研究に代表されるいわゆる逆問題の研究という二つの分野の交差点に位置する問題として大変興味深い。これまでBelishev-Kurylev、Tataruにより、すべての固有値、固有関数の境界値から、リーマン構造が決定できることは知られていた。これに対し、逆問題が決定される実際の場面でははじめに得られる情報が不完全、つまり一部の固有値、固有関数しか得られないし、それらは誤差も含んでおり、そのような状況においても内部のおおよその情報を決定することは重要な問題である。このような安定性の問題に関し、逆問題は非適切(ill-posed)であるのでいわゆる条件付安定性を考えるわけであるが、ここでは考える多様体のクラスを制限し、その中で問題を考えることに相当している。これまで、Anderson, Kurylev, Lassas, Tayiarと多様体のRicci曲率、平均曲率の1階微分、単射半径、直径の制限の下で安定性の結果を得ていた。さらに再構成についても、Kurylev, LassasとRicci曲率、平均曲率の1階微分のヘルダーノルムの制限の下で境界距離の擬等長類から内部距離を近似する有限距離空間を構成していた。これはRicci方程式による解析的議論によりRicci曲率、平均曲率の評価を断面曲率、第二基本形式のヘルダーノルムに帰着し、あとはリーマン幾何的議論を行うことにより得られている。今回,引き続き、境界距離の擬等長類から内部距離を近似的に構成する問題に取り組み、断面曲率のsup評価および第二基本形式の1階微分までの評価のみから結果を得た。ただし以前のKurylevらとの共同研究とは異なり、Ricci方程式の議論が使えるわけではないので得られた条件としては独立なものである。
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