研究概要 |
この研究課題については,数学定数であり超越数でもある円周率πの数値表現を,擬似乱数生成に用いるという提起をし,その実現のため数値的な検証を行った.すでに知られているπの超多数桁10進表現を使い,それを適宜な桁数ごと区切ったのち規格化し,[0,1]区間に分布する一様乱数とみなしたとき,他の生成法と比較して統計的優劣があるかどうかを検定した.方法としては米国NIST提唱の組織的な方法と,擬似乱数生成を確率微分方程式の数値解に使うことを意図であるのを考慮し,モンテカルロ数値積分によっても検定した。 この結果,πを用いる方法は他の方法と比較して決して劣ることはなく,むしろいくつかの優位さが見られることを示した.この結果は同志社大学理工学研究報告第49巻(2008),160-168.頁に公表した.今後の課題としてはπによる擬似乱数生成を高速化することであり,それには生成アルゴリズムの並列化が有効との見通しをもっている.πの16進数値表現を桁ごとにほぼ独立に計算できるアルゴリズム(BBPアルゴリズム)の活用が目標となる.この課題はまだ進行中である. また確率微分方程式の数値的安定性に関しては,中国・北京のG. -Da HuとQ. Zhuと共同研究を行い,制御工学の観点も導入した研究で成果を得て,現在学術論文を投稿中である. 関連する微分方程式の数値解析に関して,中国・上海のJ. -X. Kuang, H. -J. Tianとの共同研究で,中立型遅延微分方程式(neutral delay differential equations)の線型安定性解析において特性方程式の根判別に関する新しい結果を導き,この基準を数値安定性解析にも応用した成果を収めた.この結果はJ. Comput. Appl. Math.,第223巻(2009),614-625頁に掲載された.
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