昨年まではタイヒミュラー空間の幾何的な座標の研究を行ってきたが、今年度はタイヒミュラー空間のサーストンコンパクト化の有限次元での実現問題を研究した。リーマン面の双曲計量に関する測地線の長さをタイヒミュラー空間上の関数(長さ関数)と考え、すべての単純閉測地線の長さ関数の比を用いて、タイヒミュラー空間を無限次元実射影空間に相対コンパクトに埋め込むことができる。この無限次元実射影空間内でのタイヒミュラー空間のコンパクト化をサーストンコンパクト化という。サーストンコンパクト化は有限次元の円板であるのに対し、それが実現されている土台の実射影空間は無限次元なので、サーストンコンパクト化の幾何構造を解析するのは未だに難しい問題である。そこで次の問いが考えられる:「有限個の単純閉測地線の長さ関数の比を用いて、タイヒミュラー空間を有限次元実射影空間の領域として実現し、さらにその境界がサーストン境界と一致するようにできるか。」この問いに対し、今年度タイヒミュラー空間の次元が2次元と3次元の場合に肯定的に問題を解決することができた。この結果はフリブール大学(スイス)のGendulpheとの共同研究で、大阪市立大学数学研究所プレプリントにまとめた。秋期日本数学会の函数論分科会、および12月に参加したOberwolfach研究所(ドイツ)でのタイヒミュラー理論の研究集会でも招待講演を行った。
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