生体内で起こる化学反応の多くは、金属を活性中心に持つ金属酵素によって触媒される。生体化学反応は酵素と基質が混合することで開始される。本課題研究では、急速混合凍結法を用いて、サブミリ秒領域での酵素反応の進行を停止させ、捕捉した反応中間体を電子スピン共鳴(EPR)分光法で検出・同定する方法を採る。短寿命反応中間体EPRスペクトルの測定には、短時間内に酵素と基質を混合し、さらに凍結して反応の進行を止め、中間体分子種を捕捉する装置の開発(再現性の高い混合装置)が必要である。従来型の急速混合凍結装置では凍結時間の再現性に問題があった。反応液を押し出すポンプシステムをHPLCのポンプシステムに変更することで安定な流量の確保を可能にした。更に77K下でEPR測定用試料管に凍結試料を確実に導入できる方法を考案して再現性の高い凍結時間(dead time 0.25ms)をもつ新しい急速混合凍結装置を完成させた。本課題研究の対象タンパク質であるシトクロムP450cam試料標品の大量培養、分離、精製を行い、本急速混合凍結装置を用いて酸化型シトクロムP450camと過酢酸との反応(shunt pathway)実験を行った。EPR分光法により反応中間体ポルフィリンπカチオンラジカル(Compound I)信号の観測・同定に成功した。そのEPR信号の時分割測定、解析を行い、Compound I中間体分子種生成後にアミノ酸上のラジカル分子種(チロシンラジカル)に移ることを確認し、シトクロムP450camの反応機構を議論した。しかし、本急速混合凍結装置を用いてもCompound I中間体分子種生成前の初期生成分子種であるペルオキシド結合型Fe^<3+>低スピンのEPR信号は観測できなかった。
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