研究課題
生体化学反応は酵素と基質が混合することで開始される。本課題研究は急速混合凍結法を用いて、サブミリ秒領域で酵素と基質を急速混合・凍結して酵素反応の進行を停止させ、捕捉した不安定な短寿命反応中間体を電子スピン共鳴(EPR)分光法で検出・同定する方法を採る。再現性の良い混合凍結を可能にするHPLC式混合システムを開発して、還元型P450cam-Pdx複合体と酸素飽和緩衝液との急速混合凍結EPR実験をおこなった。反応凍結時間を0.5ミリ秒にし、野生型(WT)P450cam、異性体P450cam(T252A、D251N)とPdxとの複合体に酸素を反応させて反応中間体生成過程を比較した。特に一原子酸素添加反応が阻害されるT252A変異体では反応中間体として、還元ヘム鉄に結合している酸素分子が1電子還元されたペルオキシド型あるいはヒドロキシペルオキシド型(ともに酸化型低スピン中間体分子種)を観測することに初めて成功した。一方、第二電子供給後のプロトン供給反応が遅いと云われているD251N変異体では予想に反してペルオキシド型、ペルオキシド型にプロトンが付加されたヒドロキシペルオキシド型反応中間体分子種のEPR信号はWTと同様に検出できなかった。WTでは反応凍結試料を-60℃で5分間annealingするだけで水酸化カンファー(反応生成物)結合型EPR信号が観測されるのに対し、D251N変異体では-60℃で70分間annealingしても変化せず、-7℃で10分間のannealingで水酸化カンファー結合型EPR信号が観測された。プロトン供給はD251NでもWTと同様に起るが、ヘム空間から生成物を脱離させる機構がD(アスパラギン酸)からN(アスパラギン)の置換で抑制される構造になったと考えられる。種々の可能性を検討し、論文投稿準備中である。
すべて 2008
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
蛋白質科学会アーカイブ (Web公開誌) 1, #037
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