本研究の目的は、屈曲・伸展運動における指の筋・腱駆動モデルと3関節4腱駆動方式の腱の経路・配置を、筋・腱張力と指先操作力の関係に基づいて比較・検討することにより、屈曲・伸展運動における人の指の器用な動作が、筋・腱駆動系のどのような機構によって実現されているのかを、静力学的に調べることであった。人の指の筋・腱駆動モデルにおいて、屈曲・伸展運動に限定するときの各関節に対する筋・腱の経路と3関節4腱駆動方式の腱の経路を比較した。この比較により、複雑な人の筋・腱駆動系を簡単化し、筋張力で任意の指先操作力が制御できるように各関節に対する筋・腱の経路のモデル化を行った。MRI計測に基づいて、人の指の各関節における各腱のモーメントアームのモデル化を行った(被験者3人)。擬似三角構造マトリクスに基づいて得られた筋・腱の経路モデルとMRI計測に基づいたモーメントアームのモデルより人の示指の新しい腱駆動系モデルを作成した。このモデルを用いて、筋張力空間から指先操作力空間への写像を幾何学的に表し、その幾何学的特徴を基に腱駆動系の静力学的特徴を調べた。結果として、MRI計測に基づいた示指の3つの関節における筋・腱のモーメントアームのモデルを新たに構築できた。そのモデルと3関節4腱駆動方式の腱の経路とを比較することで、指の筋・腱駆動系が擬似三角構造マトリクスに基づく駆動系に近似できることが判った。結論として、人の示指の筋・腱駆動系は、筋張力により任意の各関節トルクを理論的に安定に出力できる筋の数と経路を持っていることが判った。
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