研究概要 |
これまでの研究で,安静時心拍変動における個人間変動と個人内変動の定量化を試みた結果,心拍変動の周波数成分(LF,HF)について個人間と個人内変動の寄与率は分散比で約70%と30%程度であることが明らかになった(ただし,この比率は被験者の年齢分布に強く依存する)。個人間と個人内変動の大きさをCV(変動係数)で表した場合,それぞれ45%と20%程度となった。しかし,この結果は安静時のものであり,何らかの刺激下においては異なる特性を示すことも考えられる。計算課題などの心理的ストレスを付加した場合に心拍変動が変化することは,これまでに多くの研究で報告されてきている。このような場合に個人差特性(個人間変動と個人内変動)はどのような特性を示すか?またこの反応の個人間差は性格特性によってどの程度説明されるか?これらの疑問を明らかにすることが本課題の目的である。 20年度の実験実施に向けて,本年度は心拍変動測定の際の呼吸コントロールの必要性について検討した。心拍変動測定においては測定信頼性のため何らかの呼吸コントロールを実施することが必要であるといわれてる。しかし,本課題のように心理ストレスの影響を扱う場合には,呼吸コントロール自体が一種の負荷課題となるため,結果の解釈が複雑になる。検討の結果,測定中に変則的な呼吸を避けるように入念に指示しておけば,いわゆるメトロノーム呼吸を行わなくても十分な安定性・信頼性を得ることができることがわかった。この知見に基づき,本課題の実験においては呼吸コントロールを実施しないこととした。これにより,条件が単純化されるので,当初の予定よりも被験者数を増やすか,もしくは測定繰り返し数を増やすことが可能になった。
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