本研究では木質を構成する成分の質的・量的制御を中心に据え、各種前処理の適用による木質バイオマスの用途のブレイクスルーを最終目標としている。平成20年度においては、(1)リグニンの量的な差異が化学反応に及ぼす影響を明らかにするために、リグニン含有率が異なる広範な樹種を提供し、とくにアセチル化の反応性を詳細に検討するとともに、(2)フェントン試薬を用いて、木材中の成分組成を制御(低分子多糖の量的削減)することがアセチル化に対する化学反応性や木材の物理的・力学的性質に及ぼす影響を明らかにした。また、(3)バルクの木質バイオマスのアセチル化に関する、より実用性に近い反応システムの開発を試みた。得られた結果は以下の通りである。 1)アセチル化に対する反応性(反応速度、反応の到達度)の検討を行なった結果、リグニン含有率の高い樹種で高い反応性が見られたことから、木材構成成分の中で、反応速度に対するリグニンの関与はセルロースやヘミセルロースに比べて大きいことが明らかになった。一方、ソリッドの状態の木材中ではセルロースの化学反応に対するアクセシビリティーが極めて低いことも判明した。 2)フェントン試薬処理による低分子多糖の量的制御の結果はアセチル化の反応速度に大きい影響を及ぼさないことが判った。また力学的性質に関しては、低分子多糖の削減とリグニンの削減は、いずれもマトリックス形成物質の消失を意味することから、結果的には類似の変化を引き起こした。 3)バルクの木材に対するアセチル化の反応系についても検討を行なった。その中では、とくにアセチル化を対象として、環境負荷と投入エネルギーの削減を目指した、酢酸塩触媒による反応系を集中的に検討し、実用化も視野に入る有望な結果を得た。
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