研究概要 |
分子シャペロンHsp90は、DNA損傷応答に関わる種々のタンパク質の安定性、細胞内局在、活性を制御することにより、複製ストレス応答に重要な役割を果たしている。複製ストレス応答に関与する特殊なDNAポリメラーゼPolηは、色素性乾皮症バリアントタイプの原因遺伝子で、紫外線や抗がん剤に対する細胞の感受性、遺伝子の突然変異の発生に関与している。今回、我々は、PolηがHsp90による制御を受けているか解析,をおこない、以下の知見を得た。 1)EGFP-Polηを安定に発現するHEK293T、HeLa細胞を用いて免疫沈降法をおこなったところ、Hsp90はPo1ηと特異的に結合し、これらの結合はHsp90阻害剤17-AAGで抑制された。また、内在性のPolηもHsp90と特異的に結合していた。さらにrabbit reticulocyte lysatesで合成したPolηもlysates中のHsp90と結合した。 2)17-AAG処理、RNAiによるHspgo阻害は、紫外線照射によるPolηの複製フォーカスへの集積を抑制した。 3)Hsp90阻害により、HeLa細胞では、Polηのプロテアソームによる分解が亢進した。一方、HEK293T細胞では、17-AAG処理によるPolηの減少は見られなかったが、核内フォーカス形成に重要なモノユビキチン化PCNAとの結合が抑制されることがin vivo,in vitroで明らかになった。 4)17-AAG処理は、HeLaおよびHEK293T細胞の紫外線に対する感受性を亢進させた。shRNAでPolηの発現を抑制させたHEK293T細胞はコントロールの細胞よりも高い紫外線感受性を示したが、17-AAGによる亢進は見られなかった。 5)SupFシャトルベクター法を用いて、紫外線誘発突然変異率を解析したところ、17-AAG処理された細胞では、点突然変異率の増加がみられた。この17-AAGによる影響は、Polη発現を抑制されたHEK293T細胞では見られなかった。 以上の結果は、PolηがHsp90のクライアント蛋白であり、その安定性、機能の制御にHsp90が重要な役割を果たしていることを示している。Hsp90の発現量や活性に影響を与える様々なストレスや化学物質は、Polηを介して、遺伝子の突然変異の発生に関与する可能性がある。
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