最終年度である平成20年度は同意の得られた健常及び生活習慣病や冠動脈疾患などの動脈硬化性疾患を有する中年~高齢男性を追加募集し、以下の検査を行った。対象者に対して、内因性の血中男性ホルモンである遊離テストステロンとdehydroepiandrosterone-sulfate(DHEA-S)の血中濃度及び血管の動脈硬化の指標である上腕-足首間の脈波伝播速度(pulse wave velocity:PWV)、頸動脈内膜中膜複合体厚(intima-media thickness:IMT)、冠動脈造影による冠動脈の有意狭窄病変の数を測定し、血中男性ホルモン濃度と動脈硬化の程度との相関関係を単回帰及び重回帰分析を用いて解析した。その結果、中年~高齢男性の血中DHEA-S濃度は単回帰分析ではPWV(n=192、r=-0.39、p<0.001)、頸動脈IMT(n=120、r=-0.40、p<0.001)、冠動脈の有意狭窄病変の数(n=178、r=-0.32、p<0.001)とそれぞれ有意な負の相関関係を示した。また、重回帰分析により年齢で補正しても血中DHEA-S濃度はPWV、頸動脈IMT、冠動脈の有意狭窄病変の数とそれぞれ有意な相関関係(p<0.01)を認めた。一方、中年~高齢男性の血中遊離テストステロン濃度は単回帰分析ではPWV(n=192、r=-0.30、p<0.001)、頸動脈IMT(n=120、r=-0.23、p<0.05)、冠動脈の有意狭窄病変の数(n=178、r=-0.29、p<0.001)とそれぞれ有意な負の相関関係を示したが、重回帰分析により年齢で補正すると血中遊離テストステロン濃度は冠動脈の有意狭窄病変の数とのみ有意な相関関係を示した。このように、本研究では中年~高齢男性の内因性血中男性ホルモン濃度が低下しているほど血管の動脈硬化が進展していることから、男性ホルモンが血管の動脈硬化に対する保護的作用を有する可能性を示唆した。今後、更年期男性に対する男性ホルモンの投与により、血管の動脈硬化の進展が抑制されるか否かを確認することが必要であると考えられる。
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