家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は成人発症の常染色体優性遺伝の神経難病である。血中の異型トランスサイレチン(TTR)のほとんどが肝臓から産生されることから、近年、肝移植が行われるようになり、肝臓の異型TTR遺伝子を移植で正常化すると、全身症状が進行しなくなることが判明した。これまで我々は、single stranded oligonucleotides (SSOs)によるTTRの遺伝子変換に成功した。Chenらは、single-stranded DNA expression vectorを開発し、DNAエンザイムの細胞内発現による標的遺伝子の発現抑制を報告した。そこで、本研究ではFAPの遺伝子治療の実用化に向けて、更に変換効率を上げるため、SSOsを細胞内で発現させるsingle-stranded DNA expression vector(SSOs発現ベクター)による遺伝子変換システムの確立を目的とした。昨年度、Chenらの提唱する発現ベクターが実際に機能するかを確認するために、Chenらにより提唱された発現ベクターの構築をもとにTTR遺伝子を抑制するDNAエンザイムを発現するように設計した発現ベクターを作成し、HepG2細胞に導入したところ、TTR遺伝子の発現抑制が起こることをリアルタイムRT-PCRおよびwestern blot法にて確認した。本年度は、TTR遺伝子変換を起こすように設計した2種類のSSOs発現ベクター(50bpと74bpのSSOsを発現)を作成した。まず、遺伝子導入効率の高いHEK293細胞にTransIT-293を用いて導入し、アレル特異性を利用したリアルタイムPCR法にて遺伝子変換率を算定したところ、50bpのSSOsを発現させたもので1.85%、74bpのSSOsを発現させたもので4.78%の遺伝子変換が認められた。次に、FAPの標的臓器である肝細胞(HepG2細胞)でのTTR遺伝子の変換をTransITなどの各種の遺伝子導入剤、エレクトロポレーションなど様々な導入方法を用いて試みた。HEK293細胞と異なり、遺伝子変換はほとんどの系で得られなかったが、炭酸アパタイトナノ粒子と遺伝子導入助剤を用いた系で、50bpのSSOsを発現させたもので0.61%、74bpのSSOsを発現させたもので1.47%の遺伝子変換が認められた。以上より、今後課題は多いものの、本法よるFAPの遺伝子治療の可能性が考えられた。
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