研究概要 |
発達期の脳は低酸素症に対して強いことがよく知られている。特に、分娩時の子宮収縮にともなって胎児への酸素供給は長時間、間欠的に中断される。しかし、多くの場合、重篤な脳障害はみられない。そのメカニズムは多くの研究があるにもかかわらず明らかではない。私たちはこれまで低酸素症における胎仔脳の保護機構についての研究を行ってきた。今回、低酸素症の胎仔脳において、どのようなマイクロRNA(miRNA)が発現するかについて検討した。 胎仔(胎令、21日目)は母体と臍帯を介してつながった状態で実験を行った。低酸素負荷は5分間臍帯を結紮することによって行った。その後、胎仔脳を取り出しmiRNAの発現を調べた。その結果、臍帯結紮3時間後にmiRNA(miR-7b,-9,-21,-124a)発現量が増加することが確認された。miR-7bとmiR-21の発現はapoptosisの抑制に働くことが知られている。またmiR-9とmiR-124aの発現は神経細胞新生に関与していることが知られている。miR-210は低酸素症において転写制御に関与することが知られている。miR-210の発現量の変化は見られなかった。これらの結果から、低酸素症の胎仔脳において、apoptosisが抑制されると同時に神経細胞新生も起こってくることが示唆された。これらのmiRNAの働きにより胎仔脳は厳しい低酸素症に対してapoptosisを抑制することによって脳を保護するとともに、神経細胞新生を促し脳の機能を回復することが考えられる。
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