驚愕刺激の50から200ミリ秒前に先行刺激を付加すると驚愕刺激を単独で提示した場合よりも驚愕反応が減弱する。この現象はプレパルスインヒビション(PPI)とよばれ、知覚の情報処理、思考や認知に関係する神経回路の機能を反映している。機能性精神障害や神経変性疾患の一部においてPPIが減弱し情報処理、思考や認知の障害の関与が示唆される。健忘型軽度認知瞳害軽度はアルツハイマー型認知症の前駆段階であり、この段階で薬物療法を行うことにより軽度アルツハイマー型認知症への進行を遅延させることができる。健忘型軽度認知障害の診断のための簡便な非侵襲的検査としてPPIの応用を検討するため、正常加齢、健忘型軽度認知障害、軽度アルツハイマー型認知症の3群間でPPIを比較した。正常加齢、健忘型軽度認知障害、軽度アルツハイマー型認知症において聴力に異常はなく性別、年齢、教育年数に有意差はなかった。正常加齢に比べ健忘型軽度認知障害と軽度アルツハイマー型認知症は記憶機能を評価する改訂ウェクスラー記憶検査(WMS・R)と全般的な認知機能を評価するMini-Mental State Examination(MMSE)の得点が有意に低かった。さらに健忘型軽度認知障害に比べ軽度アルツハイマー型認知症はMMSEの得点が有意に低かった。正常加齢、健忘型軽度認知障害、軽度アルツハイマー型認知症の間で驚愕反応の強度に有意差はなかった。PPIに関しては正常加齢と比べ健忘型軽度認知障害で増強、軽度アルツハイマー型認知症で減弱した。アルツハイマー型認知症の最初期には内嗅皮質から病変が出現するが実験的に内嗅皮質を破壊した動物ではPPIに異常がみられる。アルツハイマー型認知症の内嗅皮質、海馬傍回、海馬などの大脳辺縁系から大脳新皮質連合野に広がる病理学的変化がPPIを制御する神経回路に影響した結果ではないかと思われる。PPIが健忘型軽度認知障害を正常加齢と軽度アルツハイマー型認知症から鑑別するための一つの指標となる可能性があると考えられる。
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