本研究は、オイルショック後の1970年代後半から80年代までの日本政治の転換を、政治思想研究の立場から分析したものである。この時期は、自民党の補助金ばら撒きによる「利益政治」や、革新自治体の社会民主主義的政策が行きづまり、行財政改革が深刻な課題となったが、他方では様々な面での「国際化」の圧力もあって、ナショナリズムが目立つ現象として出現した。本研究は、とくにナショナリズムに焦点を絞りながら、この時期の政治思想を分析することを意図したものである。当該の時期の日本政治研究において、政治過程分析が主となっており、政治思想からの先行研究はほとんど存在しない状況をふまえ、その欠落を埋めることをもめざした。 研究の遂行にあたり、まず全国紙の「論壇時評」を参照して、この時期にどのようなテーマがどのように論じられたかをサーベイした。そして「「戦後」の終焉」、「国際化」、「新保守主義」などの論点にもとづいて議論を整理した。そして研究テーマであるナショナリズムが、いかなる動機や背景にもとづいて、いかなる形で主張されたか、そしてその影響はどのようなものだったかについて考察した。70年代後半以後、日本経済の世界における比重の増大によって、日本は「経済大国」として認知されたが、それは国民のあいだにある種のナルシズムの雰囲気を生んだ。中曽根首相はこうした国民的雰囲気に見合った見事なパフォーマンスを演じることによって、この時代のナショナリズムを醸成した。英米に顕著だった新保守主義の風潮も、それを助長したといえる。
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