19世紀末に組織化、ルールの統一化を達成したホッケーは、統括組織の普及戦略のもと20世紀初頭にかけて緩やかに普及した。ただしこの普及期に活動していたのは統括組織加盟クラブだけではなかった。独自の活動を続けた非加盟クラブもあった。また加盟クラブから非加盟クラブへ、またはその逆への移行も見られた。クラブレベルの多様な実践が存在したのである。ホッケー普及過程のより正確な理解のためには、これらの個別クラブの活動の検討が不可欠である。よって本年度は、1898年から1911年まで存続し、統括組織非加盟期、加盟期の両時期を経験したイングランド北部のクラブ、「ケンダル・レディーズ・ホッケークラブ」に焦点を当て、このクラブの活動の検討からホッケー普及過程の特徴を考察した。検討のために用いた主要史料は、昨年度の研修旅行時に入手した同クラブの内部記録(議事録、幹事メモ、会計帳簿ほか、カンブリア・レコード・オフィス所蔵)である。検討の結果、このクラブは非加盟期にすでに統括組織のルールを採用していたこと、非加盟期に実施されていた男女混合ホッケーとリーグ戦は加盟期には実施されなくなったことが明らかになった。以上から、ホッケーの普及過程は、統括組織の普及戦略が貫徹された過程というよりも、非加盟クラブの独自な活動も含む重層的な過程であったと評価すべきであることが示された。なお、日本体育学会第59回大会において、上記の成果が公表された。
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