慢性心不全に代表される循環器疾患は、自律神経系の異常(交感神経の緊張、迷走神経の減弱)が病態を進行させる主要因である。本年度は、循環器疾患が心臓自律神経系機能に及ぼす影響について定量的に明らかにすることを目的とした。評価方法は、麻酔下動物を対象に、交感および迷走神経刺激に対する心拍数応答を測定し、伝達関数を用いたシステム解析を用いた。循環器疾患のモデル動物には、冠状動脈結紮による慢性心不全ラット、本態性高血圧ラット(Wister Kyoto)、および加齢ラット(SD系雄、20〜23ヶ月齢)を用いた。 その結果、いずれのモデル動物においても、交感神経刺激に対する心拍応答の伝達関数は、先行研究同様、2次遅れ低域通過特性で近似できた。しかしながら、正常動物の固有振動周波数(0.07±0.01Hz)と比較して有意な変容は観察されなかった。また、利得にも有意な差は観察されなかった。迷走神経刺激に対する心拍応答の伝達関数は、1次遅れ低域通過特性で近似できたが、正常動物に観察される遮断周波数(0.11±0.06 Hz)と比較して有意な変容は観察されなかった。また、利得においても変化は有意な変化は観察されなかった。 これらの結果は、循環器疾患に観察される心拍変動からみた交感神経の緊張および迷走神経の減弱が、末梢側(心臓)の神経活動に対する心拍応答の変容よりも、中枢性の神経活動の変化に起因している可能性を示唆するものである。運動療法がこれら病態モデル動物における心拍応答特性に及ぼす影響に関しては今後の検討課題である。
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