本年度は、胚や胎児を用いた研究についての規制が議論されている欧州諸国について調査を行った。具体的には、胚や胎児の研究利用に反対し胚に生存権を認める論者が、胚が廃棄され中絶が合法的に行われている現状についてどのように考えているのかについて、文献の収集と主にスイスの議会資料の検討をした。 スイスでは、ES細胞研究を容認する法律が2005年に施行されたのだが、この後に、着床前診断解禁のために、生殖医療法の改正を求める決定を連邦議会が行った。このときの連邦議会の議論、国家倫理委員会の見解等について論文をまとめた。 スイスにおける着床前診断の解禁には、中絶の合法化及びES細胞研究の容認が大きな後押しになっていたことが、自由民主党(急進民主党)議員の発言などから判明した。つまり、中絶が合法であり、胚の研究利用が容認されているのに、着床前診断を禁止しているのは矛盾するという議論である。それに対して、社会民主党や緑の党の議員からは、中絶が母親と胎児の間の対立であり、着床前診断は研究者や医師による選別であるという反論が行われている。 今後、この議論をさらに詳しく見ていくために、中絶した胎児の移植利用を容認した、スイスの移植法(2004年成立、2007年施行)とドイツの改正移植法(2007年)における議論を追っていくことにした。
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