胚や中絶胎児から得られる細胞や組織の利用に関して、諸外国の議論と日本の議論の状況とを比較検討した。具体的には、胚や胎児を用いた医療や研究の規制が進められている諸外国のうち、特にスイスを対象に調査を行った。 スイスでは移植法が2004年に成立し、2007年から施行された。スイス移植法には人の胚や胎児から採取された組織・細胞を移植に用いる際の規制が盛り込まれ、連邦保健庁による認可義務、提供者に対する説明と同意の方法、提供者によるレシピエントの指定の禁止などが定められている。これらの条項に対して、キリスト教保守派の政党が反対したことがわかったが、幹細胞研究法制定の際に反対にまわった緑の党は特に強い反対をしなかった(「スイス移植法の概要と制定経緯」『福井工業高等専門学校研究紀要』参照)。今後は、人体研究法における胚・胎児の研究利用に関する議論を中心に検討を行う。 また、中絶胎児の利用に関する議論について、以前に発表したものを書き改めた論考(「中絶と胎児利用の「道徳的共犯関係」」)を『捨てられるいのち、利用されるいのち-胎児組織の研究利用と生命倫理』(生活書院)に発表した。
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