本年度は、引き続きドイツ連邦共和国に滞在し、そこでの利益剥奪制度についての研究を行った。ドイツにおける財産刑の変遷に関する理論的研究と実務的運用に関する実際的調査を行い、特に下記2点、拡張的没収追徴に関する判例研究と予防的利益剥奪処分に関する研究を重点的に行った。 1. 拡張的没収追徴に関するドイツの判例研究から、手続き上の負担は没収を容易にする方向の運用がなされつつも、違法行為によらない財産も安易に包括して剥奪することを制約する判断が断片的に示されていることが明らかとなった。すなわち、起訴の対象となっていなくとも、証明がなされなくとも何らかの違法行為により獲得されたものであれば足りるとの連邦通常裁判所の判断がある一方、薬物犯罪者が所持していた現金、被害者の回復請求権ないしその賠償に資する可能性がある金銭についての制約的な判断等が示されている。 2. 2005年に導入されたニーダーザクセン州における予防的利益剥奪規定が理論的関心を呼び、かつ注目すべき実務的運用がなされていることが明らかになった。この制度は刑事法上の制度ではなく、行政的規制であるが、現在の危険が認められる場合には行政官庁ないし警察は物品を押収することを許すものである。それが、実際の運用に目を向けると、2009年に、犯罪者が所持する現金の没収を可能とする判決が相次いで出されており、その適用限界に関する理論的議論と政策的機能は注目に値する。学説上はこれを更なる犯罪収益の剥奪に資する制度として政策的に評価し、かつその要件たる「現在の危険」が金銭等に適用されることを理論的な観点から基礎付けようとする見解もある一方、財産権の制約という観点およびその手続き的正当性という観点から、憲法上の疑義を有する規定・運用であるとの指摘もある。これらはわが国での制度設計、政策論、解釈論の双方にインパクトを与えうる制度・運用であると思われる.
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