本研究の目的は、日本人飼主に対して行われた先行研究で見いだされてきたペットへの依存的愛着が、欧米人飼主にも存在するのか、存在するとすればそれは精神的健康にどのような影響を及ぼすのかを検討することであった。本年度は、アメリカ合衆国在住の18歳以上の白人男女412名、および日本在住の30歳以上の男女500名に対してインターネットを通じた調査を行った。結果の概要は以下の通りである。 1.ペットへの愛着項目を因子分析にかけたところ、日米間で同じ因子構造が示され、互いに独立な2因子(基本的愛着、依存的愛着)が抽出された。2.これらの愛着の程度をそれぞれ日米間で比較したところ、基本的愛着は日本人よりもアメリカ人の方が強かったが、依存的愛着はアメリカ人より日本人の方が強いことが示された。3.依存的愛着の文化差の原因を、パス解析を用いて検討した。その結果、子育て観の媒介効果が見られた。つまり、日本人はアメリカ人よりも「子供が小さいうちは、したいようにさせてやるのが望ましい」といった放任的子育て観を強く持っており、それがペットに対する強い依存的愛着と関連していることが明らかになった。4.日本人飼主については、基本的愛着が高いほど主観的幸福感が高いとの結果が得られた一方で、依存的愛着と主観的幸福感との間に関連はないという先行研究とは異なる結果が得られた。他方、アメリカの飼い主については、基本的愛着と主観的幸福感の間に関連はなかったが、依存的愛着が高いほど主観的幸福感が低いことが示された。以上の結果は、欧米における先行研究では基本的愛着と呼びうる健康的な関係性のみが取り上げられ、逆に種々の問題を引き起こしかねないペットとの依存的な関係性の存在が見過ごされてきたことを示唆している。
|