これまでカナダの子育て支援事業(ファミリー・サポート・センターの概念的前身)に関する論文は、さまざまな活動の紹介の域にとどまり、多様な地域課題(子育て課題)を乗り越えるための、事業展開の相違が具体的に説明されてこなかった。このことによって、カナダの至る所で、まったく同じ子育て支援事業が展開され、成功をおさめているという誤解をうんでいるともいえる。ここでは、7か所の社会教育関連施設を視察し、関係者にヒアリングすることによって、貧困や識字、若年層の親への支援などさまざまな子育てと地域課題に対して、どのような事業展開がなされているか明らかにした。多くの場合、すべてが成功しているというものではなく、課題を抱え、克服しながら事業の改善がなされていることが明らかとなった。(調査地:セントラル・イグリントン・コミュニティ・センター/ドロップインチャイルド&ペアレンティングセンター/ジューイッシュ・コミュニティ・センター/ソース・リバーダル・コミュニティーセンター/スキャディング・コミュニティー・センター/ハーバーフロン'ト・コミュニティー・センター/YMCA・ペアレンティング・センター) カナダのファミリーサポートは、生涯学習や成人教育の思想の上になりたっている。そこでは、親を子育ての客体にするのではなく、常に子育ての主体とすることを大切にしている。しかし、それは子育てを親だけに任せるというのではなく、外に助けを求めることもエンパワメントの一つと位置づけている。また格差社会という、多様な社会経済的背景を持った家庭を支援するためには、このようなあらゆる人々を想定して支援する考え方が重要となっている。一方、日本の本事業は、有料であり、格差社会における貧困層支援のために、新たな制度設計の工夫が求められる。またカナダのようにサポーターの養成制度を深めていくことが必要である。
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