本研究開始にあたり、まず、異文化コミュニケーション研究における「(異)文化」「コミュニケーション」の使われ方の問題点、および「比較(すること)」と文化を理解・表象することについての考察を学会(「文化」を比較することと異文化コミュニケーション研究」)、および『多文化社会と異文化コミュニケーション』(三修社)の「第9章 『文化』『コミュニケーション』『異文化コミュニケーション』の語られ方」で発表した。 さらに、日本語教育における「(異)文化教育」の問題点に関する資料収集および考察を行った((1)日本語の教科書:「文化」表象分析のため;(2)(言語・文化)教育実践の試みに関するもの)。また、米国での日本語教育実践者に、これらの問題点に関する認識とそれらの問題点を乗り越える実践についての基礎的な聞き取りを行なった。 これらから、日本語教育においても、文化本質主義的な文化観が依然として、教科書や教授のなかで広く用いられていること。また、この文化観とともに、(異文化)適応の発想が根底にあることが示唆された。こうした問題を踏まえ、こうした教育営為を批判的に捉えることが受講生側に必要なこと、そして、そのための力を涵養すること(言語教育の場でそれを実践することも含めて)を具体的に進展させる必要性がある。他方、教育者の営為を批判的に捉える実践の更なる必要性が示唆された。また、伝統的文化観がはらむ問題点と伝統的教育・教授観の親和性、そして、言語や文化に関する、新たな学びの重要性が強く求められることと、その具体的実践のあり方をもさらに模索することが必要であることが示唆された。 次年度以降、具体的な実践のあり方をさらに考察する。
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