本年度は、主として、言語や文化の規範化・標準化に関する資料収集と考察を行った。それらは、「国際英語・世界諸英語」「英語英国主義」「言語・文化の消滅と画一される生の様式」「国家と標準語」「標準語・方言」「エスペラント」「多言語主義」「言語権と多元的社会」「ピジン・クレオール」として、「よくわかる異文化コミュニケーション」(ミネルヴァ書房)で発表した。この中で、言語や文化に関わる様々な問題点を整理するとともに、言語・文化の規範性を乗り越える枠組みの可能性について、まとめた。 さらには、異文化コミュニケーション研究における、文化概念、コミュニケーション概念、コミュニケーション能力概念に関わる問題について、資料集や関係者からの聞き取りをし、その史的展開から考察を行った。また、これらの問題と言語教育との接点について考察中である。これについては、近日中に発表予定である。とりわけ、文化概念が、文化人類学やカルチュラル・スタディーズのなかで、グローバル化の影響を受けて、批判にさらされ、変容していくなかで、異文化コミュニケーション研究においては、旧来の「閉じた体系としての文化」概念が支配的なままであった。その一方、近年では、上記人類学やカルチュラル・スタディーズ等の展開を受けて、批判的異文化コミュニケーション研究を構想する方向が提示されつつある。 これをうけて、来年度は、この批判的異文化コミュニケーションの枠組みを吟味しながら、日本の文脈でどのように展開・実践しうるかを考察するとともに、クリティカル・ペダゴジーや言語教育での批判的実践などを参照しながら、教育における、文化やコミュニケーション規範を乗り越える実践の可能性について、探求したい。その際に、近年の学習理論の展開や情報技術を利用することによって、従来の言語・文化の学習を乗り越える学びの可能性について、考えていきたい。
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