本年度は、「文化」「コミュニケーション」を批判的に捉える以下の考察を行った。第1に、異文化コミュニケーション研究の展開を、(1)文化人類学的創成期;(2)科学的実証期;(3)批判的展開期に分類することを提示し、異文化コミュニケーション研究が、実践的分野として展開したことによって、文化やコミュニケーションの単純化、それに対する科学的手法による学術的精緻化、そして、近年の文化やコミュニケーションの批判的捉え直しとして捉えられることを、「異文化コミュニケーション研究の歴史」(『現代日本のコミュニケーション研究」日本コミュニケーション学会編、三修社)に発表した。 第2に、コミュニケーション研究の「コミュニケーション」概念の捉え方の変遷を、(1)伝達モデル;(2)社会構築主義モデル;(3)批判的モデルの観点から考察した。コミュニケーションは、学術的、一般的に、効果的な伝達と捉えられ、個人や社会の変容させること、それを可能にする要因の考察が主であった。しかし、1990年代以降、コミュニケーション・プロセスを一義的に捉えるアプローチが重要視されることによって、コミュニケーション・プロセスが社会的現実を構築し、それに影響を受けると捉えられた。そして、社会構築主義に基づきつつも、社会的現実が、必ずしも、公平ではないという問題意識で、批判的視点が台頭してきた。この考察は、近日中に、公刊予定でおる。 第3に、コミュニケーション研究教育における「批判的アプローチ」「棲み分けと統合」の考察を行った。前者については、コミュニケーション研究教育における批判的視点の生成と特徴などについて、後者については、多文化共生・多文化主義における相対主義的によって、意図せさる文化集団間の分離・棲み分けを促進することを指摘し、これを越える共生のありようを考察した。「異文化コミュニケーション事典』(春風社)に掲載される予定。
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