本年度は研究計画に従い、現地調査を中心に研究活動を展開した。調査対象とした都市はコルカタである。ムンバイにおけるチョールは、アジアの集合住宅形成史上、特徴的な存在の貸間集合住宅形式と位置づけられるが、その全インド的な伝播とその後の存続状況を確認することが、本研究の主たるテーマの一つである。コルカタはムンバイとの比較対象として重要な位置づけにある。 一連の調査によって、かつてのインド入居住地区であるブラ・バザール地区には形態的な側面でチョールと同じ構成を持つ建築物が多く分布することが確認できた。チョールに関して、ムンバイの事例との大きな差は、第一に建築の用途に現れる。コルカタでの用途は基本的に専用化しており、これまで収集した事例で支配的であった商工業用途と住居の混在は見られなかった。ただし、このうちの商業建築においては、夜間に従業員が住み込み、半ば住居として利用されている実態も確認された。形態的な側面では、コルカタの事例はムンバイと比較して大規模かつ複雑な構成を持つ傾向にある。この点に関しては、地割・街区の構成とあわせて、より詳細な調査・分析の余地がある。なお、コルカタではチョールという名称は使われていない。コモン・ビルディングという名称が一般的であり、チョールという住文化の普及過程という側面についても、これまでの事例との比較・検討の必要があることが明らかとなった。コルカタのチョールは、構成要素はムンバイの例と一致するものの、建築の全体レベルではかなりの相違点が確認できる。 コルカタにおいては、上記の現地調査を展開すると共に、地元の研究者を中心に情報収集も行った。これに伴う研究交流を通じて、本研究課題に対する協力体制の構築において大きな進展があった。来年度はこの体制の利用が可能であり、チョールとの比較対象として重要な土着の都市住居についても調査展開が期待できる状況にある。 文献収集においても、大きな進展があった。特に、英国・Blitish Library所蔵の地図資料については網羅的に閲覧し、関連するものを全てリスト化している。必要なものについては複写等を行い整理・資料化し、来年度以降利用可能な形式に整備している。
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